たとえば、ビンタの応酬の箇所では、次のような会話がなされている。

 猪木「やれるのか、お前、本当に」(藤波にビンタ)

 藤波「やりますよ(猪木にビンタを張り返す)。もっと信頼してください、俺のこと」

「やれるのか、お前、本当に」も、「もっと信頼してください、俺のこと」も倒置法の文である。さらに藤波さんは、自身に謎のヘアカットを施す際にも「いらないですよ、こんなもの」と言い放っている。

「こんなもの」が何かは不明ではあるが(髪の毛のこと?)、どの発言も、普通の語順の「お前、本当にやれるのか」や「俺のこと、もっと信頼してください」、「こんなものいらないですよ」にはない迫力がある。

語順をひっくり返しただけなのに
なぜ強いインパクトが生まれるのか

 倒置法は、プロレス以外にもさまざまな場所で効果的に使われている。たとえば昭和のヒット曲には、『浪花節だよ人生は』とか『飾りじゃないのよ涙は』のように、タイトルに倒置法が使われているものがある。もしこれらが『人生は浪花節だよ』や『涙は飾りじゃないのよ』だったら、ほとんどヒットしなかったのではないだろうか。

 また、志村けんのコント「変なおじさん」でも、変なおじさんに詰め寄る警官の台詞は「何だ君は!」であって、「君は何だ!」ではない。「何だ君は!」だからこそ、それに続く変なおじさんの「何だチミはってか!?」という返しも光るのである。