同作では、武田鉄矢が何かにつけて「このタコ!」という言葉を使い、その悪態はタコっぽさのかけらもない王女に対しても向けられる。そして重要なのが、ラストシーンでの使われ方だ(以下、ネタバレを含むため、これから見る予定のある方は次の節までスキップしていただきたい)。

 愛した女性が実は王女様だったことを知った鉄矢は、彼女にもう一度会うために空港に向かい、搭乗口で報道陣に囲まれた彼女を見つける。

 記者たちの中に鉄矢がいることに気づいた王女は、側近に「記者たちに写真を撮らせてあげたい」と告げて鉄矢に近づく。戸惑いながらカメラを構える鉄矢に、王女は日本語で一言、「このタコ」とつぶやく。カメラから顔を離し、王女を見つめる鉄矢。側近に促されて、鉄矢から離れていく王女。

 感動的なラストだ。私は子供時代にテレビでこのシーンを見て号泣した。もしもこの台詞が「このタコ」ではなく「このアホ」「このクズ」「このバカチンが!」とかだったら、この感動はなかったと思うのだ。何がどうタコなのかがいまいちよく分からないからこそ、こういう底力を発揮できるのだと思う。