さらに言えば、そういった場合、「タコ」が相手のどういう側面を揶揄しているのかがよく分からない。

「バカ」「アホ」などは相手の「愚かさ」を見下し、「イモ」なんかは「田舎っぽさ」を見下すわけだが、「タコ」は相手のどこに目を付けているのか明確ではないのだ。

 しいて言うなら「お前はちょっと間が抜けているぞ」といった感じかと思うが、かなり莫然としているし、相手の欠点を指摘するというよりも、ただ単に「あなたを見下していますよ」ということを示すためだけに使われることが多いような気がする。

「アホ」「クズ」「バカチン」では
武田鉄矢の名作映画は生まれなかった

 実際、「タコ」はかなり汎用性が高い。80年代の邦画『ヨーロッパ特急』では、「タコ」の実力が十二分に発揮されている。

 同作は、日本人の写真家がヨーロッパでとある国の王女様と出会い、相手の身分を知らないまま一緒に過ごすうちに恋に落ちる、という内容。つまり、オードリー・ヘップバーン主演『ローマの休日』のオマージュというか、ほぼ同じストーリーなのだ。ただし、グレゴリー・ペックにあたる役を武田鉄矢が演じているところが秀逸で、『ローマの休日』にはない味わいがある。