ちなみにノンフィクション作家・高野秀行さんの『ミャンマーの柳生一族』によれば、『ヨーロッパ特急』はミャンマーで大人気らしい。個人的に、この映画での武田鉄矢の名演技ぶりは、あの「僕は死にません」に匹敵すると思う。

錦鯉・渡辺の「早く読めよ」が
完璧なツッコミなワケ

 人を貶める言葉は、必ずしも「アホ」「バカ」「~しやがる」のようなものだけとは限らない。一見そういう言葉が入っていなくても、文脈との相互作用によって、十分に悪口として機能する文はいくらでもある。

 そういった例の中で私がとくに気に入っているのは、2021年のM-1グランプリで、錦鯉の漫才の冒頭に出てきた次の会話である。

 長谷川「頭が良くなる本を買ったよ!」

 渡辺「早く読めよ」

 渡辺さんの「早く読めよ」は別に悪口構文ではないし、「アホ」「バカ」のような言葉も含まれていない。しかし、長谷川さんを貶める文として完璧に機能しており、同時にどこか洗練された感じもする。