YOASOBI「アイドル」はなぜアメリカでもヒットしたのか?成功を支えた「3つの民主化」とはドワンゴが運営するニコニコ大百科では、ネットカルチャーのあらゆるミーム、キーワードのオリジンや相互関係をたどることができる 拡大画像表示

 これに対して、いまのネット環境、たとえばX(Twitter)などは無断転載、パクツイ(人の投稿をパクって自分のアカウントで投稿するツイートのこと)で日々溢れていますし、それらでインプレッション(表示回数)を稼ごうという動きが当たり前になってしまっています。カルチャーの違いは鮮明ですよね。これからAIの活用が当たり前の時代になっていきますが、あらゆるものがAIの学習用データとして取り込まれてしまう中で、「オリジンを大切にするというカルチャー」を世界に拡げていくというのが、すごく大事になってくると思います。

「オリジンを大切にする」「メロディ重視」が
日本の音楽の特徴

――2007年に、それまで無許諾動画で溢れていたニコニコ動画も、それらの削除に着手し、公式の音楽PVがほとんど配信されなくなったタイミングで、同時期に発売されたボーカロイド「初音ミク」を用いたオリジナル楽曲動画が人気を博しました。

鈴木:日本の音楽の特徴としてメロディを大切にする文化があります。そして、そこにはボーカルが必ず関わってくる。古くから「歌姫」という言葉があるように、歌を歌う存在は特別な位置づけにある。その特別な位置を、人間ではなくソフトウェアが行うというのが、日本のカルチャーにうまくはまったのだと思います。

――ボーカロイドの特徴として、現実の人間には歌いこなすのが難しい音域、ブレス(息継ぎ)でも歌えてしまうという点も挙げられますね。実際「アイドル」も相当そのような箇所があると思いました。

鈴木:そこがまさに、「ニコニコ動画=テキストカルチャー」が生きてくるところですね。「千本桜」の歌詞も、テキストあってこその面白さとも言えますので。感情、エモーションを表現する歌詞というよりも、テキストカルチャー、字面の面白さが中心にあるというのがボーカロイド(ボカロ)楽曲の面白さだとわたしは捉えています。

2011年に黒うさPが発表した「千本桜 feat.初音ミク」は、ニコニコ動画発で大ヒットした楽曲。さまざまな歌い手がカバーしている。動画はAdoが歌っているもの