YOASOBI「アイドル」は間口が広く、
ショート動画に切り出しやすい曲

――世界でのJ-POP躍進の象徴的な存在が、テレビアニメ『推しの子』主題歌の「アイドル」です。23年のビルボード・グローバル・チャート年間ソングチャートで1位(米国を除くチャートだが、米国でも9位にランクインしている)を獲得し、日本音楽が世界でヒットできることを強く印象づけました。MVはすでに5億5000回近く再生されています。

アニメ「推しの子」のビジュアルをあしらわれたYOASOBI「アイドル」MV

鈴木:すでにいろいろ分析はされていますが、音楽を本職とする立場から言うと、まずテーマがパワフルであり、色々な人に「刺さる」楽曲として仕上がっていることの凄さは指摘しておきたいです。例えば、アニソン/J-POP的な4つ打ち(1小節に四分音符が4回続くバスドラム)と、日本語の歌詞パートがメインでありつつ、冒頭が(聖歌的な)合唱からはじまるゴージャスさ、ニコニコ動画的なPPPH(パン、パパン、ヒューの略。アイドルポップスでの定番のリズムで、オタ芸を伴いやすい)のパートがあったり、ラップのパートがあったりと、それぞれの音楽好きにとっての「入り口」が散りばめられていて楽しむ事ができる。

 また、わたしもユニバーサルミュージック在籍中に研究していましたが、音楽配信ではイントロは短くしないとスキップされますし、ショート動画として切り抜かれることを前提にする必要があります。「アイドル」では、様々な音楽パートのそれぞれが切り抜かれやすくなっている。BPM(1分間の拍数=テンポ)が166の楽曲のなかで、16小節を切り出すと23、4秒くらいですし、8小節でも動画としての収まりも非常に良いのです。YouTubeやTikTokのようなユーザー投稿型のメディアとの相性は抜群で、拡散されやすい作りになっていると言えるでしょう。

――たしかにSNSでのグローバルな拡散が注目されましたが、そもそも楽曲がそのように作られているわけですね。あとは、動画配信のおかげで、世界で人気の高まっているアニメとの相乗効果もありますね。