3つの「民主化」が生み出した
日本独自の音楽カルチャー

――その「次」を巡る分析として、今年9月に経産省が発表した「音楽産業の新たな時代に即したビジネスモデルの在り方に関する報告書」にも注目が集まりました。鈴木さんは、その編集に携わった研究会の構成員も務めています。

鈴木:全体の内容やデータについては三菱総研さんがまとめたものですね。わたしは研究会の一人として、「ここに、これまでの知見は全て入れてもらおう」という思いで様々なコメントをさせてもらっています。特に、「制作の民主化」「流通の民主化」「価値配分の民主化」の3つの民主化は強調させてもらいました。

――3つの民主化について教えてください。

鈴木:かいつまんで言えば、「制作の民主化」とはパソコン1台で音楽の完成まで持って行ける、スタジオにミュージシャンを呼ばなくても楽曲ができる、歌手にお願いしなくてもボーカロイドで歌唱も組み込めるようになった、といった変化ですね。「流通の民主化」は、インターネットの普及進化で、楽曲をアップロードすれば日本に居ながらにして世界中の音楽サービスに流通させることができるようになったこと。「価値配分の民主化」については、先々はブロックチェーンなども含まれてくる話ではあるのですが、音楽による売上が中間事業者やエージェントを介さずともアーティストに直接もたらせるようになったり、伝統的な印税配分ルールなどの枠組みに頼らないシステマチックな分配が可能になったり、コラボレーションの在り方も従来の音楽業界を超えて広がっているということです。

――3つの民主化の「流通」の面で、世界に類を見ない発展をもたらした立役者が、ニコニコ動画でした。そこから、「アイドル」につながるボカロ楽曲が生まれています。YOASOBI(Ayase)や米津玄師といったボカロP出身のアーティストがJ-POPシーンを牽引している状態です。

鈴木:日本独自のものとして進化してきたというこれまでの経緯と、これからのAIへの対応という未来への備えという両面がありますね。まずビジュアル面でいうと、ニコニコ動画ではテキスト字幕、アスキーアートが映像のなかに融合します。これは日本ならではという面があって、ハリウッド、ディズニーではノンバーバル(非言語)なコミュケーションで世界を席巻してきたのと対照的なんです。そしてAIにつながる話でいうと、オリジナル(ネタ元)を大事にする「カルチャー」があるのが大きい。