サービスを開始したVポイントPhoto:JIJI

後発の楽天ポイントとdポイントの攻勢によって縮小均衡に陥っていたTポイントは、起死回生の一打を狙う。それが、ライバルのdポイントを展開するNTTドコモとの資本提携である。だが、合意寸前にTポイントは三井住友フィナンシャルグループに乗り換える。『ポイント経済圏20年戦争』から一部抜粋し、Vポイント誕生の舞台裏を明かす。(ダイヤモンド編集部)

※この記事は『ポイント経済圏20年戦争』(名古屋和希・ダイヤモンド社)から一部を抜粋・再編集したものです。

Tポイントがドコモと交渉も
土壇場で三井住友FGと提携

 楽天ポイントなどの躍進で窮地に陥っていたTポイントの有力な提携先としては、流通大手のイオンの名前も浮上した。だが、最右翼となったのがライバルのdポイントを展開するNTTドコモだった。

 2015年12月にスタートしたdポイントは、ファミマやENEOSホールディングスといったTポイントの主力加盟店に食い込むなど急成長を遂げていた。ただ、先行する楽天ポイントとはまだ差がある中で、Tポイントの加盟店網やデータの分析ノウハウを何としても取り込みたかった。

 関係者によると、ドコモとTポイントを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)は22年半ばには、ドコモがCCC傘下でTポイントを運営するTポイント・ジャパンに資本参画する方向で議論が煮詰まっていたという。

 協議は直近で形勢が逆転していたドコモが有利に運んでいた。具体的には、ドコモがTポイント・ジャパンに二百数十億円を出資し、株式を51%取得する方向だった。10カ月近い交渉の末、両者は合意寸前に至ったとされる。ドコモがTポイントを傘下に収めれば、再びポイント経済圏の版図が大きく塗り替わったはずだ。

 ところが、ドコモとTポイントの提携は幻となる。CCCが突如、別のパートナーに実質的な身売り相手として飛び付いたためだ。別のパートナーとは三井住友フィナンシャルグループ(FG)である。22年10月3日、CCCは三井住友FGと資本・業務提携することで基本合意したと発表した。

 CCCと三井住友FGの交渉は「短期決戦」だった。23年6月に両社が開いた記者会見で、三井住友FG社長グループCEOだった太田純は「こんなスムーズな交渉は初めて」と笑顔を浮かべたほどだ。太田や増田ら関係者4人で初めて会ったのが8月ごろ。基本合意の公表が10月なので、実質1カ月ほどの議論で決まったことになる。

 ドコモが先行していたTポイントの争奪レースは、ダークホースの三井住友FGが一挙にまくった格好となった。ドコモにとっては、Tポイントの翻意はまさに寝耳に水だった。合意寸前まで至りながらのちゃぶ台返しに、「さすがに全員が激怒した」(ドコモ関係者)とされる。

 CCCが三井住友FGを選んだのはなぜか。それは条件にほかならない。両社で合意したTポイントの運営会社への出資比率は、CCC側が60%で三井住友FG側が40%である。過半を譲るドコモとの提携案に比べて、CCCは主導権を維持できる。

 さらに、金額の条件も良かった。三井住友FG側の出資額は400億円規模とされる。これは、足元の苦境を反映したTポイントの事業価値を踏まえると破格だ。

 条件面ではCCCが満足する内容だったが、失ったものもある。それがTポイントの名称である。24年4月、Tポイントの名称は消え、Vポイントに姿を変えた。20年にわたって培われてきたブランドは消滅したのだ。(敬称略)