楽天グループとNTTドコモは、日本初の共通ポイント、Tポイントを追い落とし、巨大なポイント経済圏を築き上げた。楽天が携帯電話事業に参入した2020年以降は、ポイントだけでなく、モバイルビジネスでも両者はしのぎを削る。だが、実は今から9年前、楽天とドコモの間でポイント事業での提携構想が浮上していた。今年6月に生え抜き以外で初のドコモ社長となった前田義晃も加わっていた交渉は、トップ同士が握手をしたにもかかわらず破談に至った。長期連載『共通ポイント20年戦争』の#34では、今やモバイル事業で”仇敵”となった楽天とドコモの幻の提携の舞台裏を明かす。(ダイヤモンド編集部副編集長 名古屋和希)
楽天がドコモにポイント提携を打診
ドコモ初の“転職組”社長が窓口に
「ポイントビジネスで協力しませんか」。2015年3月8日、楽天(現楽天グループ)のポイント事業の総責任者である笠原和彦は、ある人物にそう持ちかけた。その人物とは、NTTドコモのポイント事業を担当するコンシューマサービス部担当部長だった前田義晃だ。
リクルート出身の前田は、00年にドコモに移籍した転職組で、コンテンツやサービスの分野を長く手掛けてきた。今年6月、副社長だった前田はNTT本体からの“落下傘”だった前社長の井伊基之からトップのバトンを引き継いだ。NTTグループの生え抜き以外が社長に就任するのは初。その経歴に加え、54歳という若さなど異例ずくめの社長交代は大きな話題となった。
笠原が前田に協力を持ちかけた当時、ドコモは共通ポイント事業への参入を9カ月後に控えていた。Tポイント、Ponta、楽天ポイントに続く共通ポイントでは4番手となるdポイントである。ライバルである楽天からの意外な申し出に、前田はあっけにとられた様子だった。
笠原の行動には目的があった。それは、自らが生んだ日本初の共通ポイント、Tポイントの打倒である。14年に楽天に移籍し、ポイント事業を率いてきた笠原は、Tポイントの強さを痛感していた。1強支配を崩すには、後発同士が手を組む必要があると考えていたのだ。
楽天とドコモの関係も良好だった。04年には、楽天会長兼社長の三木谷浩史と、ドコモで「iモード」ビジネスの立ち上げに関わり、現在はKADOKAWA社長の夏野剛が合意し、合弁で楽天オークションを立ち上げた。ネットオークション市場を圧倒的に押さえていたヤフーのヤフオク!への対抗軸を構築するためだった。
笠原と前田をつないだのも、その縁だ。カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)時代の笠原の部下で、楽天オークションの社長を務めていた舟木徹が、笠原に前田を紹介した。その後、楽天は14年にドコモの通信網を利用して格安携帯電話事業にも参入している。もちろん、楽天の携帯電話事業に参入する構想はまだ具現化する前のこと。両者の組み合わせは決して意外ではなかったのだ。