楽天(現楽天グループ)が2014年の共通ポイント事業の参入前から加盟店交渉を進めていたのが、元売り最大手のENEOSホールディングスである。だが、Tポイントと“蜜月”の関係にあったENEOSの切り崩しは難航する。長期連載『共通ポイント20年戦争』の#24では、10年にも及んだ、まさに苦闘ともいえるENEOSとの加盟交渉の全内幕を明らかにする。(ダイヤモンド編集部副編集長 名古屋和希)
Tポイント「1業種1社」縛りで
楽天のENEOS攻略は悪戦苦闘
「楽天ポイントがたまります」。2022年4月1日、そんなのぼりが、元売り最大手のENEOSホールディングスが展開するガソリンスタンドではためいた。ENEOSは2003年秋にスタートしたTポイントの最初の加盟店で、他のポイントは一切受け入れてこなかった。楽天(現楽天グループ)にとっては、Tポイントが長く死守してきた“牙城”を崩した形だ。だが、楽天のENEOSとの交渉は10年にも及ぶ、まさに苦闘だった。
交渉のスタートは13年のことだ。Tポイントの生みの親である笠原和彦が、楽天に移籍するのは14年秋。当時はまだ共通ポイント事業の参入を目指す楽天を顧問の立場で支援していた。
13年末、笠原は東京・大手町にあったJXビルに足を運んだ。アポイントメントの相手は、JXホールディングス(現ENEOSホールディングス)相談役の渡文明だ。アポ入れをしてくれたのは、渡と親交が深かったフューチャーアーキテクト(現フューチャー)の金丸恭文である。
「笠原くんよー来たな」。人懐っこい笑みを浮かべ、渡は相談役の部屋に笠原と金丸を招き入れた。笠原と渡はTポイントがスタートした時からの縁である。笠原は、楽天が共通ポイント事業に参入することを説明し、加盟店への参画を求めた。だが、小一時間ほどのやりとりで、渡の口から「検討する」という一言は出なかった。
Tポイントの加盟店であるENEOSには、「1業種1社」ルールの縛りがあった。長らく“恩恵”を受けてきたそのルールを無視して、まだ立ち上がってすらいない新たなポイントを受け入れるはずがなかった。実際、笠原らに対してENEOSの担当者もTポイントとの排他契約の存在を断り文句として繰り返していた。
さらに、Tポイントを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)社長の増田宗昭と渡は昵懇(じっこん)の仲であった。その象徴が鹿児島で開かれる Tポイントレディスゴルフトーナメント(現Vポイント×ENEOSゴルフトーナメント)だった。CCCが主催するこの大会に、渡は毎年参加していた。
ENEOSとの交渉が難航する中で、笠原が目を付けたのが伊藤忠商事のエネルギー子会社の伊藤忠エネクスである。伊藤忠エネクスは傘下に2200カ所のガソリンスタンドを抱えていた。
14年1月、笠原は伊藤忠エネクス社長だった岡田賢二に加盟を呼びかけた。岡田は12年に伊藤忠常務から伊藤忠エネクスに転じていた。伊藤忠時代に金融事業を統括していた岡田は、笠原と共にTポイントの強力な武器となったファミマTカードを立ち上げた関係だった。岡田は、楽天ポイントの導入に前向きな姿勢を示した。
実は、伊藤忠エネクスの加盟は笠原にとって、対Tポイントの“奇手”といえるものであった。