「組織学習なきデータ分析」は「空虚」である
――結局、そのチームはどうなったのでしょう?
じつは、そのあと、私のところに相談が来たのです。
ただし、この段階で、彼らのなかには「どうやら“外部丸投げ”ではこのプロジェクトはうまくいかなそうだ……。自分たちでやるしかない!」という覚悟が生まれていた。ご相談にいらしたときには「自分たちなりに考えてやっていきますので、どうしてもわからない部分や足りない知見についてだけ、専門家としてのアドバイスをお願いします」というスタンスだったので、私もサポートのしがいがありました。
最終的に彼らは、自分たちで社内のデータを分析して、心理的安全性の効果を検証するところまでいけたんですよ。
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――「業者丸投げ」ではないかたちで、「外部の知」をうまく取り込んでいけたケースですね。
そうなんです。まさにこのプロセスそのものを通じて、この人事チーム内でも組織学習が進んでいくのを目の当たりにすることができました。
同チームでは、エンジニア出身のメンバー1名が分析処理を担当していました。一定のコードを書いたりするスキルはもちろんお持ちでしたが、もともとはものすごく高度な統計分析の知識があるわけではなかった。その意味では、彼らは間違いなく「データドリブン人事の素人集団」だったのです。
当初は、「ここの数字はこういう意味ですから、こういう回帰分析をしてみてはどうですか?」というアドバイスをこちらが出しても、4〜5パターンの分析結果を出すのに1〜2週間くらいはかかっていました。
しかし、私からフィードバックをしたあとに、チームのみなさんでディスカッションを重ね、もう一度、分析にかけてみるということを繰り返すうちに、分析を回すスピードがどんどん上がっていきました。最終的には、20万件とか30万件といったデータでも、1日以内で処理できるようになっていましたね。
――すごいスピードアップですね!
分析サイクルを回すスピードが上がると、もちろん、効率よく、たくさんのデータを扱えるようになります。
しかし、それ以上に重要なのが「“考えること”にリソースを使えるようになる」という点ですね。それまでは、データを集めたり、加工したりするのに労力を割いて疲弊していたチームのなかに、じっくりと「考える」余力が出てくるわけです。
なんらかの数字が分析結果として出てきたときに、「こういう結果が出ているけど、本当にこれでいいのかな?」「次はこうしてみては?」「これって本当はこういうことだったんだ!」といった議論が、メンバー内に生まれてくる。
さらにいえば、今度また別のデータを扱うときにも、そのチームは以前よりも楽に分析ができるようになっているはずです。「どんなところに注意すればいいか」の勘所も見えやすくなっているので、データ分析の効率も上がっているでしょう。これこそが「組織学習につながるデータ分析」です。