103万円は税金に関わる壁、106万円と130万円は社会保険に関わる壁。それぞれ特定扶養控除、配偶者控除(従業員51人以上の企業)、配偶者控除(従業員50人以下の企業)の壁

「年収の壁」打破に向けて供給力強化の視点が不可欠、扶養控除制度の改廃が本質103万円は税金に関わる壁、106万円と130万円は社会保険に関わる壁。それぞれ特定扶養控除、配偶者控除(従業員51人以上の企業)、配偶者控除(従業員50人以下の企業)の壁

 衆議院選挙の結果、与党連立政権は議席数で過半数を割り、国民民主党がキャスチングボートを握る運びとなった。その国民民主党が掲げる所得税減税策が注目を集めている。

 既に指摘される通り、日本には労働者の就業意欲をそぐ制度が多く存在している。特に(1)103万円の壁(学生が対象となる特定扶養控除)、(2)106万円の壁、(3)130万円の壁は有名だ。これらの壁は、年収が一定の閾値を超えた途端、特定扶養控除や配偶者控除を受けられなくなり、手取り収入が大幅に減少する。就業調整を促すこれらの制度を改廃することは、労働供給を促し、潜在GDPを大幅に増加させ得る成長戦略だ。

 一方で国民民主党が掲げる減税策を確認すると、現在103万円に設定されているのは、所得税の基礎控除(48万円)と給与所得控除(55万円)の合計額であり、この103万円を178万円に引き上げる内容だ。103万円という金額が誤解を招きがちだが、これは前述した、学生が対象となる特定扶養控除の「103万円の壁」とは別物であり、同政策が実現したとしても、壁は残存する。

 今回議論されている減税策は、より直接的な需要喚起政策である。同政策は7兆~8兆円の税収減につながるとされる。つまり、同額の家計所得増が恒常的に見込まれるということだ。従って、家計消費の水準も、中期的にはほぼ同額、押し上げられることになる。

 問題は、人手不足の深刻化を受け、日本経済は既に供給制約の下に置かれていることだ。誤解を恐れずに言えば、同政策は需要喚起型の政策であり、供給強化型の成長戦略とは直接的には関係がない。このような状況下で供給能力の拡充なしに需要刺激政策を行うと、輸入もまた同額、増加することになる。つまり7兆~8兆円の減税を行っても、他国を潤すのみにとどまり、日本経済全体の底上げにはつながりにくい懸念があるのだ。

 需要喚起型の政策を行うならばなおさら、その恩恵を満額で受け取るためにも、供給能力の強化が求められる。そのためには結局、前述した扶養控除制度の改廃がセットで検討される必要がある。

(みずほ証券エクイティ調査部 チーフエコノミスト 小林俊介)