“108歳の聖火ランナー”を苦しめた完走の重圧…眠れないほどの不安を一発で解消した「発想の大転換」写真はイメージです Photo:PIXTA

1916年生まれのシツイさんは2021年3月、なんと104歳で東京オリンピックの聖火ランナーという大役を全うする。しかし、毎日トレーニングを続けるなか、“荷の重さ”に押しつぶされそうになったときもあったという。世界最高齢の現役理容師、シツイさんが語る当時の思いとは。本稿は、箱石シツイ『108歳の現役理容師おばあちゃん ごきげん暮らしの知恵袋』(宝島社)の一部を抜粋・編集したものです。

まさか自分に
オファーが来るなんて

 2021年の東京オリンピック。招致決定は新聞で読んで知ってはいましたけれど、なんというか、どこか人ごとのような感じでしたね。わたしの住んでいる町にはなんの影響もありませんけど、東京とか、会場となるようなところには「世界じゅうから人が来てにぎやかになるんだろうなあ」くらいの、そんな感じでしたね。

 それからしばらくした頃、オリンピックには「聖火リレー」というものがあって、そのリレーが全国を回る途中で、栃木県の那須烏山市を通るらしいと知りました。それも新聞で見たか、誰かに聞いたのか、どっちだったでしょうか。那須烏山市はわたしが住む町の隣町です。有名なお祭りもあって、子どもの頃からなじみがあるところです。それでオリンピックも少し身近なこととして受け止めるようにはなりました。けれども、特別関心があったわけでもないですから、いつの間にか忘れていました。

 あれは、当初オリンピックが予定されていた前の年、2019年の8月だったでしょうか。町の職員さんが2人で、突然、うちを訪ねてみえたんです。そして「箱石さん、聖火ランナーに応募してみませんか?今日はそのお願いに来ました」とおっしゃるんですよ。しばらくは、いったい何のことなのか呑み込めませんでした。そうしたら詳しく説明してくださって。それでわたしの中でやっとつながりました。

 忘れていましたけど、以前に聞いていた那須烏山市を通る聖火リレーで走る人を公募するらしい。そこに応募した人の中から走る人が選ばれる、と。選ばれるかどうかわからないけれど応募してみませんか、そういうことだったんですね。

「えー、このわたしがですか?」って。もう、ただただびっくりしました。驚きで頭がいっぱいになってしまって、うまく言葉が出ないほどでした。

 考えたこともない、夢にも思わないことです。オリンピック、世界的なスポーツのお祭りとでもいうんでしょうか。そこに関係するなんて、一世一代の大変なことですよね。