私の記憶が正しければ、インターネットが普及し始め、メールやBBS(掲示板)でのやりとりが始まった1990年代半ば頃は、文字によるコミュニケーションの「そっけなさ」や「冷たさ」がけっこう問題になっていたと思う。こちらが普通に書いたつもりの文章でも「怒ってるの?」と言われたことが何度かあるし、逆に他人が書いてよこした文章を読んで「怒ってるのかな?」と思ったこともある。
そのあたりを補うためか、「(笑)」とか「(爆笑)」とか「(爆)」とか「(核爆)」といったカッコ入りの表現や、いわゆる顔文字を使う人が多く出てきた。「(笑)」自体はそれ以前にも雑誌の対談記事なんかで使われていたが、個人が個人相手に送るメッセージ内で使うことが普及したのはこのときだったのではないかと思う。
知らない人とのチャットで
役に立った「(笑)」
当時の私は、「(笑)」を使うことを頑なに拒んでいた。なんとなく、相手に「ここ、笑うところですよ~」「私、面白いこと言ってますよ~」と言っているかのような気恥ずかしさがあったし、また「(笑)」を見るたびに「笑点」を連想してしまい、圓楽師匠(五代目)がメンバーの解答に爆笑しながら「アハアハアハ、山田くん、こん平さんに二枚あげなさ~い」と言う場面が思い浮かんだからだ。
今思えば別に「笑点」を連想したって何の問題もないのだが、当時は私もまだ20代で、4歳年下のスーパースター・安室奈美恵さんのファッションを真似しては「アムラー」を気取るほどにbodyがfeels exitしていたので、自分の文章から木久蔵ラーメンや毎日香の香りがするのは耐えられなかったのだと思う。
そんな自分が「(笑)」を使い始めたきっかけは、はっきり覚えている。2000年代に流行ったMMORPG、「ファイナルファンタジーXI(FFXI)」の中でのことだ。FFXIでは知らない人とパーティを組んで戦うことも多く、チャットでの会話にもそれなりに気を使った。そんな中、こちらの言うことがそっけなく聞こえないよう、私もとうとう「(笑)」を使うようになったのだ。