「草生える」が
生まれた瞬間とは

 当初は「(笑)」の簡略版としてチャットを和ませていた「w」も、ゲーム内で広がるにつれて、徐々に妙な使われ方をするようになっていく。FFXIに多くのプレイヤーが参入して騒がしくなってきたころ、「パーティ中に起こったオモシロ事件」とか「私が出会った変なプレイヤー」などが2ちゃんのFFXI実況スレに頻繁に報告されるようになった。

 そんな中、「自分が攻撃することばかり考えて仲間のことを省みない、やたらとテンションの高い某プレイヤー」が放ったとされる「うはwwwwおkwwwww」とか「みなぎっっってきwたwぜwーーー!」といった台詞が人びとの注目を集め、何かにつけて引用されるようになる。

 現在、「w」を「馴れ馴れしい」「オタクっぽい」「嘲笑されている気がする」などという理由で嫌がる人も多いが、そういったニュアンスはこのあたりから来ているのかもしれない。

 ただ、「うはwwwwおkwwwww」と言い放ったプレイヤーがなぜそもそもこういう言い方をしたのか考えると、それはたぶん「w」が連なった様子が見た目的に面白かったからだろう。ケタケタ笑っているようにも見えるし、笑いで地面が振動しているようにも見える。

 後年、これが「草が生えている」と形容されるようになり、現在「草生える」「草」が笑いの代名詞として使われているのは感慨深い。しかも、もともと「w」は書き言葉に欠けている「笑いの表情」を表す記号だったのに、そのヴィジュアルが「草」という言葉になって話し言葉に回帰したというのは、かなりレアな現象なのではないだろうか?

 草関連の表現は、「草不可避」「草原」「大草原」「芝」「草オブ草」「おハーブが生えますわ」(注2)など、今なお変異と増殖を続けている。また近年では文字のメッセージに画像のスタンプが使われるようになったり、チャットを読み上げるソフトの棒読み加減が新たな味わいを加えたりしている。書き言葉と話し言葉、対面と遠隔の相互作用は、今後ますます面白くなるかもしれない。

(注2)
大@nani(原作)、吉緒もこもこ丸まさお(作画)の漫画『ゲーミングお嬢様』(集英社)で多用されている表現。同作は、格闘ゲームに命をかけるお嬢様たち(というか、お嬢様の皮をかぶった格ゲーマー)の青春を描くギャグ漫画。格ゲー(というかストリートファイターシリーズ)が好きな人は必見。