殴られてるあいだは、痛いとかあんまり思わない。からだからこころがすっと抜けて、天井から自分を見下ろしてるような感覚になる。

「朝まで正座してなさい」って言われて、おとなしく正座してる横で、お母さんがずっとどなりつづけてるってこともよくあった。そんなときは、こうやって、お母さんに朝まで正座させられている子が、私以外にもいま、世界にふたりいる。だからまだだいじょうぶ、って思ってた。ほら、世界には、自分とそっくりな人が3人いる、っていうでしょ?そういうのを信じて、自分をなぐさめてた。

家庭の不和は
学校では隠し通した

 もちろん、学校では、家の中でなにが起きてるかなんて、ぜったいに言えなかったよ。友だちはたくさんいたんだけど、ぜったい誰にも言えなかった。お母さんと逃げてきたとか、父親がいないとか、母親が殴るとか。

「ねえねえ凜、知ってる~?××ちゃんち、離婚したんだって~」とか、そういう友だちのうわさ話とかにはぜったい乗らない。なにかの拍子にボロ出しそうで。自分ちはぜんぜんなんにも起きてませーん、って感じで、外側だけなんとかとりつくろってたんだよね。

 家ではあいかわらずで、なにかするとやりかたがちがうって怒られるし、なにもしなくてもおんなじ。だったらなんにもやらないで、バカなふりしてやられるほうがまだマシ、って思うようになった。なんかもうどうでもいいや、って、あきらめというか、投げやりな気持ちだよね。

 お母さんは働いてたから、夜7時とか8時に帰ってくるの。お母さんがいないときはいいんだけど、帰ってくると、とにかく緊張する。なにしゃべっていいのかわからないし、いつどなりだすか、いつ手が飛んでくるか予想つかないし。けっきょく私がじゃまなんでしょう?って毎日、思ってた。早くおとなになりたい、って、ずっと思ってたよ。毎晩、まず寝たふりして、しばらくしてお母さんが眠ったのをたしかめてから起きだして、夜中までテレビ見てたりもした。