これは、与党候補に次ぐ2番手候補を私たちが選び、イデオロギーの違いには目をつぶって、皆でその候補者に投票するという考え方だ。私たちは、最近の選挙結果を分析し、地元の政治評論家の意見を参考に、候補者を絞り込んだ。ほとんどの場合、最有力の対抗馬は共産党の候補者だった。ここではっきりと書いておくが、私は共産党党員が好きではない。ただ、四の五の言っている場合ではなかった。共産党が勝つのを見たいわけではなく、統一ロシアが負けるのを見たかったのだ。

立候補を阻むため
政府は有力候補者を逮捕

 2019年の夏、私たちはモスクワ市議会選挙で戦術的投票を実践に移すことにした。私自身は立候補できなくても、多くの同僚や支援者は可能だった。選挙の数ヵ月前に計画を発表し、大きな賛同を受けた。もちろん、このやり方に不満を持つ人たちもいた。「これまで20年間ヤブロコ党(編集部注/ロシア統一民主党:民主主義や人権を重視する自由主義政党)に投票してきたんだ。これからだって何があってもヤブロコ党に投票するぞ!」「投票は共産党に、だって?あんな人食い族みたいな連中に?絶対ダメ!」と声を上げる。

 私はそうした意見に対して、私たちが今選べるのは1議席だけで、たとえ応援する候補でなくても、統一ロシアの候補よりはましだ、議会に統一ロシア以外の議員が増えれば、候補者も言いたいことが言えるようになるのではないか、と説明した。

 私たちの戦術が世間に受け入れられた2018年秋には、翌年のモスクワ市議会選挙で敗北しそうな気配だとクレムリンはいち早く気づいていた。そこで政府は、最有力候補者の立候補を阻むという効果絶大な作戦に打って出る。実際、大半の有力候補者が逮捕され、1ヵ月間身柄を拘束されることになった(中にはもっと長く勾留された人もいた)。

 無所属の候補者には最後まで闘い続けた人たちもいた。リュボフ・ソボルもその一人だ。中央選挙管理委員会が立候補の登録を受け付けなかったため、ハンガーストライキを宣言し、その場を離れようとしなかった。退去を拒否してソファに座ったままの彼女が建物から運び出される映像は、この選挙運動の象徴になった。