野党の議席獲得に成功
プーチン批判が議会で可能に

 その数ヵ月前まで、市民はモスクワ市議会選挙に飽き飽きしていた。それが今やロシア全土から注目されることになったのだ。大勢の無所属候補者が立候補を阻まれた結果、大規模な抗議活動がモスクワ市内の通りで行われた。こうした抗議活動の参加者には、刑事責任に問われる人たちもいた。主な罪状は「警察官の健康に脅威を与えた」である。機動隊に空のプラスチックコップを投げても同じだった。

 この抗議デモは、ロシアの抗議活動史で極めて重要な転機となった。それまで参加したことのなかった人々にまで裾野が広がったことに加え、弾圧が厳しくなったからだ。2017年、抗議デモに参加した場合の勾留期間は15日間だったが、2018年には30日間に延びた。2019年からは、年単位の禁錮刑を科される可能性も出てきた。

 そして2019年9月、モスクワ市議会選挙が実施された。私たちの本命候補者は出馬が禁じられたにもかかわらず、戦術的投票は効果があった。プーチンの党の議員数は38人から25人に減少した。統一ロシアのモスクワ代表も落選。人数はわずかとはいえ、私たちの手で、真の意味で反体制派である議員の選出も実現できたのだ。今や、市議会の場でモスクワ市長とプーチンの両者を堂々と批判できる立場にある。

 一方、抗議票の分散を期待して出馬した泡沫候補者の中には、当選して驚いている人もいた(これが戦術的投票の効果だ)。いずれにせよ、モスクワ市議会は私が望んでいたようにこれまでと大きく異なる顔ぶれとなった。統一ロシアによる独占は跡形もなく消え、議会内野党の声がこれまでになく大きくなった。

 私はこの事実を刑務所ラジオで知った。抗議デモのたびに逮捕されてきたが、今回もまた逮捕されたのだ。でも、うれしかった。戦術的投票がモスクワで成果を出したので、このアプローチをロシア全土で使うことができる。地方議会選挙は翌年2020年の9月にシベリアでも予定されていた。それに、1年以内にロシア連邦議会の国家院の選挙も控えている。