見慣れないバーテンダーと
嫌な味のカクテル

 私たちは1年近くをかけてシベリアの選挙戦を準備した。私は2020年の夏、選挙運動の決定的な一手を打つためにシベリアに飛んだ。ノボシビルスクとトムスクでの調査の様子を撮影しようと考えたのだ。すべてうまくいき、記録も残した。8月19日の夜、調査チームが滞在していたホテルのレストランに入った。

 食事のラストオーダーの時間は過ぎていたが、すでに軽く夕食をすませていた仲間がキッチンにかけあい、少しだけ時間を延長して何か食べ物を用意してもらえないだろうかと頼み込んだ。「食事はいらないかな。今朝は飛行機の時間がとても早かったから、皆と一緒に軽く一杯飲んで、もう寝ようと思う」と私は伝えた。

 バーには見たことのない風変わりなバーテンダーがいて、私のことをじっと見ているようだった。前日には違うバーテンダーが立っていたのだが、きっとシフトの関係だろう。「ネグローニをもらえるかな?」とウェイターに伝えたころには、くだんのバーテンダーの存在をすっかり忘れていた。カクテルが運ばれてきて一口飲んだが、とても嫌な味がして、それ以上は飲めなかった。突然、あの風変わりなバーテンダーの顔が頭をよぎった。バーテンダーらしく見えなかったあの人物だ。私はカクテルを残した。皆におやすみの挨拶をしてから、自分の部屋に戻った。

 2020年8月20日。目覚ましが朝5時30分に鳴った。すっと目が覚めて、バスルームに向かう。シャワーを浴びる。ヒゲは剃らずに、歯を磨く。ロールオンの制汗剤は空になっている。ボールが乾燥していたが、ごみ箱に捨てる前に、もう一度脇にグリグリする(数時間後、仲間が部屋を調べに入ったときに、ごみ箱から発見されたのがこの容器だ)。

 まずいな、飛行機に乗り遅れるかもしれない(編集部注/ナワリヌイ氏は、この飛行機内で毒を盛られ、死線をさまようこととなる)。