「うるさいな!貸金庫に入れるんだよ!」
お客が銀行に保管物を話してしまうケースとは

「おたくの銀行でさ、貸金庫借りてるんだけど、どうかしら?おたくの行員さんも盗んだりしていない?」

 そんな電話が増えている。当行は事件を起こした銀行とは違うのだが、銀行そのものが信じられない存在になっているようだ。この手の電話は、おおむね最後にこのような捨て台詞を吐かれる。

「どこもみんな同じようなこと、やってるんじゃないの?」

 そう思われても仕方がない事件だった。被害に遭った貸金庫には現金や貴金属が入っていたというが、内容物目録を作成するなどの特別なケース以外、銀行は保管している内容物を知り得ないはずだ。なぜ金目のものがあると分かったのか。それは、今後の銀行による調査や捜査当局の調べによって分かるだろう。

 一方、多額の現金を預金口座から引き出す際に、貸金庫での保管に切り替えることを理由にするお客もいる。ただしこの場合、窓口はしつこいほどに利用用途を訊ねていく。マネーロンダリングを封じるためである。口座を通じた現金の移送は記録が残るため、犯罪が絡む場合は現金そのもので受け渡しを行う。そこで銀行としては、なぜ多額の引き出しが必要なのか、納得できる理由が必要となるのだ。

「何に使おうがあんたらに関係ないだろう?俺の金なんだから、俺の勝手じゃないか!」

「多額の現金を引き出す際には、理由や使用用途を確認するよう警察や金融庁から指導されております。何卒ご理解、ご協力をお願いします」

「リフォームするんだ」

 かなりの割合で「リフォーム代」という答えが返ってくる。話を聞き進めるとリフォーム業者は決まっておらず、すぐに支払えるよう家に置いておくためだと言う。「リフォーム業者が決まった際、振り込みにすると手数料がもったいない」「再度銀行に行くのが面倒」といった具合で、銀行としては記録に残せないような理由ばかりである。工務店に数百万円も現金で渡すなど、よほどの事情でもない限り考えられないからだ。

「多額の現金を持ち歩いたり、自宅で保管するのは危険だと思いますので、私が工務店に交渉しましょうか?」

 こういった提案は、どうやらお客にとってはありがた迷惑のようだ。

「うるさいな!貸金庫に入れるんだよ!」

「はい?」

「おたくの貸金庫だよ!それなら文句ないだろ?あんたらがさ、そうやって警察みたいに詮索してくるの、腹が立つわ。おたくとは2度と話したくないから、貸金庫に入れて好きな時に自由に出し入れするわ!」

 そういうことではなく、こちらは使用用途を聞きたいのだが…。

 ただし、ちょっとした残高を口座に残しておくと、投資信託などの勧誘セールスがうるさいから貸金庫に移す例もあり、その理由はさまざまだ。また、このように「貸金庫に現金を保管する」と銀行側に話してしまうお客がいるのも事実である。