「あんたらみたいに暇じゃねーんだよ!」
怒りをぶつけるパンチパーマの客
さて、貸金庫を強制的に開扉するケースがある。それは手数料を長期間滞納し、借り主と連絡がつかなくなった時だ。あらゆる手段を講じても連絡不能になった時、銀行は規約に基づいて貸金庫を開扉する。
そんな場合でも、銀行単独では絶対に開扉しない。公証役場から公証人を呼び、立ち会いのもとで開扉し、内容物をひとつひとつ公証人が記録し、冒頭で記した「内容物目録」を公正証書として作成する。
そして、公証人と共に内容物目録が入った袋を封緘し、持ち主が現れるまで、支店の中にある金庫で永久に保管する。歴史の長い支店にもなると、その量は膨大になる。
借り主に無断で貸金庫を開扉するケースがもう1つある。それは、借り主が亡くなった時だ。預金口座であれば、死去の通知を受け預金口座は凍結される。同じように貸金庫の場合も、遺族が勝手に開扉できないよう対策を施している。
遺族から「貸金庫の中に預金通帳や不動産の権利証があり、遺産を分配したいので開けてほしい」と言われることがある。その場合、原則としては死去した契約者当人の戸籍謄本、相続人全員の署名と実印での押印、印鑑証明書、さらに相続を受ける全員の戸籍謄本または戸籍抄本が必要となる。遺族の間に揉め事が起きていたら、簡単には行かないこともあるだろう。
終活の際に「貸金庫はやめなさい」と言われる所以がここにある。貸金庫に入れたばかりに、相続手続きがスムーズに進まなくなることも多い。
ある日、父親を亡くした50代の男性が来店した。自営で飲食店でもやっているのだろうか、油汚れが目立つコック服のままでパンチパーマに髭を蓄え、いかにも気性が荒そうな風体だった。来店するや、いきなり怒りをぶつけてきたので印象に残っている。
「なんなんだよ、この銀行。親父の戸籍謄本なんて要らないだろ?他の銀行じゃ言われなかったけど。わざと時間かけて嫌がらせしてるんじゃないの?」