現役メガバンク行員が語る「銀行員のトホホな生態」写真はイメージです Photo:PIXTA

預金担当課長の異動時に
引き継がれる「臍の緒」

 預金担当課長が、異動で新たな支店に赴任する際、貸金庫に関する引き継ぎは極めて重要となる。自分の在任期間中に内容物を紛失したなどあってはならないため、念入りに「内容物目録」を確認する。貸金庫の保管物を銀行が知ることは、通常できない。だが、特別なケースにのみ、貸金庫の内容物目録という書類が作成されるのだ。これについては、後半で詳しく説明しようと思う。

 私がかつて在任した支店では、時折「臍(へそ)の緒」と書かれた内容物目録が目に入り、今でも印象に残っている。生まれた時に母体の胎内で繋がっていた、あの臍の緒である。金持ちになろうが、そうでなかろうが、財産がどうであろうが、産んでくれた母親と繋がっていた唯一の証として、貸金庫の利用者が何より大事にしていたのかも知れない。長らく保管された内容物目録を確認すると、なんとも切なく感じることがある。

 最近、とあるメガバンクで利用客の貸金庫から多額の金品が盗まれた事件が発覚し、大きな話題となった。貸金庫を担当する管理者による犯行だと報じられている。私も同じ業務に携わる身であり、今回の報道は決して他人事とは思えない。

 そもそも、銀行員による横領や窃盗、詐欺などの巨額不祥事は今回が初めてのことではない。

「その手があったのか…」

 不謹慎なようだが、犯行手段が明るみになるたびにそう思う。だが、銀行員がお客の金に手をつけることなど、あってはならないことだ。やろうと思えばできてしまうが、それをやらないのは、ピストルを持っていても人を殺さない警察官や自衛隊員と同じではないか。治すのが面倒だと患者を殺めてしまう医者はまずいない。倫理観を持っているからこその話である。

 お客の金に手をつけたら終わり。

 誰しもが思っている聖域を守ってきたからこその銀行業界が今、揺らいでいる。