筆者がApple Vision Proを使い始めて半年が経った。この秋にはMetaがスマートグラスの次世代モデルのプロトタイプであるOrionを発表。直近ではGoogleもAndroidを空間拡張したAndroid XRのデモを行うとともに、クアルコム、サムスンの協力を得てXRヘッドセットとスマートグラスを開発中であることを公表するなど、ライバル企業たちもにわかに空間コンピューティング環境の整備に力を入れ始めている。今回は1年の締めくくりとして、こうした空間コンピューティングをめぐる状況を俯瞰し、今後の展開に思いをめぐらせてみた。(テクノロジーライター 大谷和利)
「空間コンピューティング」の発案は、約20年前
「空間コンピューティング(Spacial Computing)」という用語や概念自体は、それほど新しいものではなく、Appleの専売特許でもない。2003年に、MITメディアラボのサイモン・グリーンウォルドという学生が書いた、その名も「Spacial Computing」という修士論文のために案出した言葉なのである。
その論文で、空間コンピューティングは次のように定義されている。
「空間コンピューティングとは、機械が現実の物体や空間に参照を保持および操作する、人間と機械のインタラクションである。このインタラクションにより、機械は作業や遊びにおいて、より充実したパートナーになることができる」
これは、まさにApple Vision Proなどが目指している環境に他ならないが、2003年の時点では、実際にそのような環境を広く提供するための技術がまだ整っておらず、大きな話題にはならなかった。この点は、アラン・ケイが1960年代後半から構想し始め、1972年に正式発表された「ダイナブック」と似てアイデアが先行し、のちの技術の進化によって構想に近い製品が生まれていったのと似ている。
ちなみに、空間コンピューティングという用語のIT業界内での認知度が高まったのは、2017年発表のMagic LeapのARグラス製品、Magic Leap Oneが明示的に使ったことがきっかけだった。