迎え撃つAppleの出方は?

 現在のApple Vision Proに関しては、年末にかけて生産終了の報道が相次ぎ、中には販売低迷で推定50万台しか流通しなかったとの記事も見られた。しかし、これは当たり前のことで、そもそも製造に不可欠なソニー製の4K OLEDパネルの年間生産数が90万台であるため、それを2基ずつ内蔵するApple Vision Proは、45万台以上製造することができないのである。

 さらに初代Apple Vision Proは、今でも十分実用域に達していて、visionOSの改良も順調に行われているとはいえ、主に開発者とアーリーアダプターが主なターゲット層となっている製品であり、現段階でスマートフォンのように売れるわけではない。そして、他のApple製品でも、次世代モデルの投入に向けて前モデルの生産を何カ月か前に終わらせるのは普通のことなのだ。

 実際の第2世代Apple Vision Proの発表時期については、おそらく現行モデルの在庫状況を勘案して行われるだろうが、早ければ2025年のWWDCの頃か、遅くとも秋のスペシャルイベントでということになるのではないだろうか。いずれにしても、ライバル製品の発売開始は来年後半になると思われるので、Appleとしても必要以上に事を急ぐ必要はない。また、初代ハードウェアの完成度が高いので、第2世代モデルも大幅な変更はなく、噂されるようにチップをM5に変えて価格を見直す程度のマイナーチェンジに留まる公算が強そうだ。

 また、MetaのOrionプロトタイプのコストや、GoogleがAndroid XRのグラス製品についてはイメージビデオで済ませて実機を披露しなかったことからもわかるように、高機能なグラス製品の実用化は、軽量化やバッテリー駆動時間などを含めて、ヘッドセットよりハードルが高いところもある。以前のコラムでも触れたように、AppleはすでにOrionレベルのプロトタイプを開発済みと考えられるが、「ファーストよりもベスト」という同社の哲学に沿って製品の煮詰めに時間をかけ、その登場は2026年以降になると考えるのが妥当だろう。

 懸念事項があるとすれば、今のvisionOSでは、SiriによってGemini搭載のXRヘッドセットのデモのようなアプリ連携はできないという点だ。そのため、Apple Intelligenceを含めて、空間コンピューティングとの親和性をもっと高めることが求められる。

 さらに、現在はハードウェアを擁していないOpenAIも、Gemini内蔵のAndroid XRデバイスに対抗していくためには、少なくともウェアラブルな自社デバイスを持つ必要があり、それが元Appleのジョナサン・アイブ率いるLiveFromとの協業によるものであれば、各社にとってかなり強力な競争相手となりそうだ。

 いずれにしても、空間コンピューティングは2025年には助走から踏み切りの時期に入り、2026年以降のジャンプのタイミングに備えていくことになる。その意味で来年の展開も楽しみにしている。読者の皆さんも、良いお年をお迎えください。