あの「九龍城」が舞台の香港アクション映画
タイトルの「九龍城砦」という文字にピンとくる方もおられよう。日本では「九龍城」の名のほうが知られているかもしれない。
ご存じない方のためにちょっとご紹介すると、九龍城砦とは、アヘン戦争を経て1842年にイギリスに割譲されて植民地となった香港島の動向、そして貿易船を狙って出没する海賊を監視するため、当時の清朝政府が対岸の九龍半島に築いた軍事駐屯地がその原型となっている。1898年に九龍半島もイギリスに割譲されたものの、交渉により九龍城砦(当時は「九龍寨城」と呼ばれていた)だけが清朝が管轄する飛び地として残された。とはいえ、その後中国の政権が中華民国、そして中華人民共和国へと変転するうちに、そこは「中国領」ながらも中国の官吏は駐留せず、香港の宗主国イギリスの統治も、その植民地政府の管理も及ばない「三不管」と呼ばれる地区となった。
その結果、「三不管」九龍城砦には中国からの密入国者や、あるいは植民地香港の「お尋ね者」たちが逃げ込み始め、1987年の統計によると、面積わずか0.026平方キロメートルに約3.3万人が暮らす、世界一の人口密度を持つ超過密地帯となった。そのため、内部は違法増改築が相次ぎ、電線や水道管が枝分かれし放題となり、また外の植民地では禁じられているギャンブルや麻薬などの行為が蔓延(まんえん)し、「現代のカスバ」とか「無法地帯」と呼ばれていた。
映画『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』はそんな九龍城砦を舞台に、中英間で香港の主権返還交渉が進められ、そこでの利権を狙う外部マフィアと九龍城砦を実際に管理していたグループとの戦いを描く。
九龍城砦は主権返還前の1984年に取り壊されたが、この作品ではまるで当時の香港の縮図のような社会構造、また主権返還を前にしたその混沌が描かれており、多くの香港人たちの「郷愁」を誘い、大ヒットした。