最新技術で進化する香港アクション
もう一つ、大ヒットの要素の一つが、もう長いことスクリーンで観ることがなかった、盛りだくさんのアクションシーンである。
香港はかつてブルース・リー、そしてジャッキー・チェンなどの活躍で、世界的にアクション映画の都として名を馳せた。特にアクション映画ファンだったわけではない筆者も、違法建築のおかげで昼間も日が差さない九龍城砦を再現したセットで展開されるアクションに「あの香港が戻ってきた!」と心が踊った。
そんな筆者の感想を、同作品のアクション監督を務めた谷垣健治さんに伝えると、「まるで香港人みたいな感想ですね」と笑われた。
谷垣さんのプロフィールを拝見すると、彼がジャッキー・チェンにあこがれて香港アクション映画に出たいと香港で暮らすようになったのも、筆者と同じく90年代のことだという。九龍城砦がまだあった時代の空気を知り、そこから今や「香港映画界を代表するアクション監督の一人」になった谷垣さんに、ここ30年来の香港アクション映画の舞台裏について尋ねてみた。
――作品では九龍城砦のセットとともにCGが多用されているようですが、技術の発展はアクション映画にどんな影響を与えたのでしょう?
「CGという言葉の定義によりますが、クライマックスシーンでキングがバイクを蹴るカットだけCGスタントを使いました。でも他はすべて実際に生身の人間がやっています。背景をCGで延長したりはしていますが」
――えっ?
「アクションの現場にCGが導入された結果、最も大きく変化したのは「ワイヤー」を消せるようになったことですね。ワイヤーと言っても今はテクミロンという素材を使っていますが、1990年代の最初の頃まで実際にワイヤーを使っていました。90年代は大人を支えるワイヤーの径が2ミリを超えると画面に見えてきてしまうので、黒マジックで塗ったり、カメラを斜めにしたりとかいろいろ工夫していたんですけれど、96年くらいからCGで消せるようになった。そうすると撮れる画が違ってきますからね。これはぼくらにとって大きな変化でした」