「あなたは人生というゲームのルールを知っていますか?」――そう語るのは、人気著者の山口周さん。20年以上コンサルティング業界に身を置き、そこで企業に対して使ってきた経営戦略を、意識的に自身の人生にも応用してきました。その内容をまとめたのが、『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』「仕事ばかりでプライベートが悲惨な状態…」「40代で中年の危機にぶつかった…」「自分には欠点だらけで自分に自信が持てない…」こうした人生のさまざまな問題に「経営学」で合理的に答えを出す、まったく新しい生き方の本です。この記事では、本書より一部を抜粋・編集します。

職場で「能力はあるのに、成果が出てないよね」と評価される人に足りていない「7文字の要素」とは?Photo: Adobe Stock

企業も人生も「ポジショニング」が大事

インタビュアー:アーティストとして成功するための秘訣は?
アンディ・ウォーホル:しかるべき時に、しかるべき場所にいること、だね。

 これは、アーティストのアンディ・ウォーホルの言葉です。

 インタビュアーに対するアンディ・ウォーホルの木で鼻を括ったようなぶっきらぼうな回答は、経営戦略論におけるポジショニング理論の本質をよく表していると思います。

 アーティストと同様に、企業もまた「しかるべき時に、しかるべき場所にいること」が重要だ、と考えるのがポジショニング理論です。

 ポジショニング理論では、企業の長期的な競争優位は、その企業の内部にある資源や能力よりも、その企業の置かれた場所や環境によって大きく左右される、と考えます。

 ポジショニング理論の教祖であるハーバード大学のマイケル・ポーターが、この理論を最初に提案したのは1980年に出版された初著『競争の戦略』においてでした。

 この本は、基本的に経済学における産業組織論の枠組みを用いて書かれています。競争戦略論の教祖とされていることから、誤解されていることが多いのですが、ポーターはもともと「経営学」ではなく、「経済学」の研究者で、博士号も「経済学」で取得しています。

 経済学では「社会的厚生の最大化」を目指します。簡単に言えば、市場で健全な競争が起き、独占企業が高い価格で暴利を貪るようなことがなく、誰もが必要なものを適切な価格で買える社会を「良い社会」と考え、このような状況の実現を阻害する要因を是正することを目指す、ということです。

 しかし、これをひっくり返してみるとどうなるでしょうか?

 独占企業が高い価格で暴利を貪っている状況というのは、社会全体にとって望ましいことではありませんが、個別企業からすれば理想的な状況ということになります。

 ポーターがやったのはまさにこれで、彼は、経済学でやってきた研究をそのまま裏返しにして経営学の世界に持ち込んだのです。すごい発想の転換です。

「より良い社会を実現するためにはどのような経済政策が求められるのか?」というルソー的な研究テーマが学究キャリアの途中でひっくり返り、「個別企業が暴利を貪るためにはどのような経営戦略が求められるのか?」というマキャベリ的な研究テーマに変わってしまったわけで、そういう意味でマイケル・ポーターという人は「経済学の堕天使」なのです。

 私は、マイケル・ポーターという人の著書に触れるたびに、怨念ともいえるような熱量を感じるのですが、いったいキャリアの途中で何があって堕天使になったのか? ぜひ一度お伺いしてみたいものだと思っています。