「あなたは人生というゲームのルールを知っていますか?」――そう語るのは、人気著者の山口周さん。20年以上コンサルティング業界に身を置き、そこで企業に対して使ってきた経営戦略を、意識的に自身の人生にも応用してきました。その内容をまとめたのが、『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』「仕事ばかりでプライベートが悲惨な状態…」「40代で中年の危機にぶつかった…」「自分には欠点だらけで自分に自信が持てない…」こうした人生のさまざまな問題に「経営学」で合理的に答えを出す、まったく新しい生き方の本です。この記事では、本書より一部を抜粋・編集します。

【驚き】素質があっても伸びない子と時間をかけて人生の成功を手にする子、その違いを生む「たった一つの要素」とは?Photo: Adobe Stock

 2023年夏、慶應高校野球部が「Enjoy Baseball」を理念に掲げて甲子園で優勝し、世間の注目を浴びました。それまで、甲子園で優勝するには長時間の厳しい練習に耐え、必死になって勝利を求めなければならないと考えられていたのが、「とにかく野球を楽しむこと」を理念として掲げる野球部が優勝してしまったことから、勝利至上主義、根性至上主義の人々からはやっかみ混じりのさまざまな批判がありました。

 私たちは一般に「楽しむこと」を目指すのは趣味の世界であって、仕事や勝負の世界はそんなに生やさしいものではない、と考えてしまいがちです。しかし、本当にそうなのでしょうか?

 今から2500年前、中国、春秋時代の思想家、孔子は「論語」において次のように語っています。

 これを知るものはこれを好むものに如かず。
 これを好むものはこれを楽しむものに如かず。

 孔子は「あることを知っているだけの人は、それを好んでいる人には勝てない。しかし、それを好んでいる人も、それを楽しんでいる人には勝てない」と言っているのです。

 この孔子の言葉を踏まえれば、慶應高校の掲げた「Enjoy Baseball」が、実は競争戦略として最も強力なアプローチだった、ということがよくわかるでしょう。なんと言っても「楽しんでやっている人」に「頑張ってやっている人」はかなわないのですから。

 私たちは、パフォーマンスを上げるために「つらいことでも頑張らねば」とか「嫌なことでも続けねば」と考えて努力してしまいがちですが、孔子に言わせれば、その先には敗北しか待っていません。本当にパフォーマンスを上げたいのであれば、むしろ逆に「楽しむこと」こそが求められるのです。

才能より「長く続けられるかどうか」が大事

 この洞察を人生の経営戦略=ライフ・マネジメント・ストラテジーに当てはめてみれば、私たちが選ぶべき仕事は、何よりも「楽しめる」ものであることが重要だということになります。この点について、棋士の羽生善治は次のようなコメントを残しています。

「素質って本当に難しいテーマで、子供たちに会って将棋を指すと、たくさん手が読めるとか、発想が豊かだとか、正確に指せるとか、積極的に駒を動かしているとか、パッと見て手が選べるとか、一局指すとその子の持っている素質がかなり見えるんですよ。ところが、そういう素質豊かな子が全員そのまますくすく育つかというと、そうでもない。(中略)

 個人的に大事な要素は「地道に着実に続けられる」ということだと考えています。それが才能とか努力に結びつくのではないかと。だからたくさん手を覚えるとか計算が早くできるということも大事なんですが、将棋って、とにかく長くやっていくものなので、十年二十年経ってくると、そういうことはあまり関係なくなってくるんです。根気よく粘り強く続けられることのほうが資質とか才能より大事な要素なのかなとは思ってます」。

 信原幸弘・エクスナレッジ編『脳科学は何を変えるか』

 羽生善治が指摘する「将棋はとにかく長くやっていくものなので、才能よりも、根気よく続けられることの方が大事」という指摘は、ライフ・マネジメント・ストラテジーに大きな示唆を与えてくれると思います。

 私たちは往々にして「自分にはどんな才能があるか」「自分が人より得意なことは何か」という論点を立てて職業選択の立脚点にしようとしますが、このような立脚点は超長期のプロジェクトである人生を戦っていく上では脆弱だということです。