そのときには、さらに深刻な事態を招くでしょう。社員たちにすれば、その「給与削減」も、コンサルタントの発案だと理解するでしょうから、言葉を選ばずに言えば、職場を仕切り始めたコンサルタントは”敵”にしか見えません。

 そして、自分たちが不利益を被りながら、一生懸命に働いて業績が回復したときには、その”敵”の手柄になるように感じられるわけです。まともな従業員たちは、もともと「なんとか業績を回復させなければ」という気持ちで頑張っていたはずですが、その気持ちが萎えても仕方がない状況に陥りかねないのです。

コンサルタントが「利益」を絞り出す?

 一方、現場に送り込まれたコンサルタントにすれば、「結果」を出さなければ契約を打ち切られるおそれがあります。
 だから、本来は、従業員たちと丁寧なコミュニケーションを重ねることで、士気を高めなければならないのですが、それは極めて難しいことですし、それをやるだけの時間もありません。

 そこで、士気の上がらない従業員たちを力づくで動かして、「結果」を”絞り出す”ようなことをし始める可能性が生じます。あるいは、徹底したローコストオペレーションで、現場を疲弊させながら、利益を”絞り出す”かもしれません。

 だからこそ、先ほど触れたように、コンサルタントの「成果」について、定量的評価だけではなく、定性的評価に注意を払う必要があるのですが、コンサルタントに「丸投げ」「お任せ」にしている経営者には、そんな現場の「現実」などわかるはずもありません。

 そのため、「見た目の数字」が出ていることを評価した経営者は、コンサルタントと契約を継続させて、結果的に「長期契約」になることがあるわけです。これは、現場にとっては、「絶望的」というしかない状況でしょう。

 そして、経営者が全く気づかないまま、現場は疲弊の度を深め、長期的・持続的に「成果」を生み出す土壌そのものが完全に崩壊するかもしれません。そうなれば、企業の弱体化は避けられないでしょう。コンサルタントに安易に「実行」を任せると、一歩間違えれば、このように恐ろしい状況が招き寄せられるのです。

会社が「意思のない烏合の衆」へと堕落する

 私は、実際にそうした惨状を目の当たりにしたことがあります。
 かつて、経営が悪化した海外企業を買収し、経営統合に動き出したばかりの頃のことです。実際に経営統合を開始するにあたって、調査チームがその会社の実態を調査したのですが、調査結果の報告会において発表された「総合評価」が驚くべきものだったのです。

 調査チームのメンバーは異口同音にこう主張しました。
「率直に言って、経営のオーナーシップを失った執行担当の経営層は、自分の頭で考えない、自分の意見をもたない、発言しない、無責任の烏合の衆になっている」

 そして、そのような状況を生み出した原因のひとつが、「経営改革」と称して、何社ものコンサルティング会社が現場に入り込んで、結果的に経営を弱体化させるような”改革プロジェクト”を、彼らの指導のもとに何年もの間、延々と続けていたことにあると結論づけたのです。

会社が「意思のない烏合の衆」へと堕落する

 そこで何が起きていたのか、私には生々しく想像できました。
 経営者がコンサルティング会社に”丸投げ”をしたことで、現場の士気が致命的に低下したのでしょう。士気がなければ、「自分の意見」も「責任」も何もかも失うのも当然。むしろ、でかい顔をして社内を闊歩するコンサルタントたちの言いなりになったほうが楽なのです。

 その結果、歴史ある大会社が、自らの意思を失った”死にかけた巨象”になっていたというのですから、実にショッキングな報告でした。そして、その会社との経営統合を始めるにあたって、まず第一に、「経営改革」を担当していたコンサルティング会社との契約をすべて破棄するところから着手しなければならなかったのです。

 だから、コンサルタントに仕事を依頼するときには、くれぐれも注意しなければなりません。
 コンサルタントは「使う」ものであって、経営者や会社が「使われ」てはならない。意思決定や実行のオーナーシップは「使う側」が堅持しなければならない。この原理原則を手放してしまったとき、会社は「意思のない烏合の衆」へと堕落して、根本から腐っていくおそれがあるのです。

(この記事は、『臆病な経営者こそ「最強」である。』の一部を抜粋・編集したものです)

【一流経営者が明かす】コンサルタントが会社を壊す、恐るべき「メカニズム」とは?荒川詔四(あらかわ・しょうし)
株式会社ブリヂストン元CEO
1944年山形県生まれ。東京外国語大学外国語学部インドシナ語学科卒業後、ブリヂストンタイヤ(のちにブリヂストン)入社。タイ、中近東、中国、ヨーロッパなどでキャリアを積むほか、アメリカの国民的企業だったファイアストン買収(当時、日本企業最大の海外企業買収)時には、社長参謀として実務を取り仕切るなど、海外事業に多大な貢献をする。タイ現地法人CEOとしては、同国内トップシェアを確立するとともに東南アジアにおける一大拠点に仕立て上げたほか、ヨーロッパ現地法人CEOとしては、就任時に非常に厳しい経営状況にあった欧州事業の立て直しを成功させる。その後、本社副社長などを経て、同社がフランスのミシュランを抜いて世界トップシェア企業の地位を奪還した翌年、2006年に本社CEOに就任。「名実ともに世界ナンバーワン企業としての基盤を築く」を旗印に、世界約14万人の従業員を率いる。2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災などの危機をくぐりぬけながら、創業以来最大規模の組織改革を敢行したほか、独自のグローバル・マネジメント・システムも導入。また、世界中の工場の統廃合・新設を急ピッチで進めるとともに、基礎研究に多大な投資をすることで長期的な企業戦略も明確化するなど、一部メディアから「超強気の経営」と称せられるアグレッシブな経営を展開。その結果、ROA6%という当初目標を達成する。2012年3月に会長就任。2013年3月に相談役に退いた。キリンホールディングス株式会社社外取締役、株式会社日本経済新聞社社外監査役などを歴任・著書に『優れたリーダーはみな小心者である。』『参謀の思考法』(ともにダイヤモンド社)がある。(写真撮影 榊智朗)