「上司が部下を理解するのに3年かかるが、部下は上司を3日で見抜く」と言われるように、“できるリーダー”を演じてもすぐに見破られてしまう。では、自信がない者はリーダー失格なのか? そんな不安を吹き飛ばしてくれる本が『優れたリーダーはみな小心者である。』(ダイヤモンド社)だ。著者はブリヂストンで世界約14万人の多様な部下を率いた元CEOの荒川詔四氏。本書で荒川氏は、リーダーの「繊細さ」「小心さ」を武器にできる内向的な人が優れたリーダーに育つと明言。その実体験にもとづく説得力あるメッセージが多くの共感を呼びロングセラーとなっている。そこで本記事では、「優れたリーダーの会議でチームワークが生まれる理由」について、本書の内容をもとにお届けする。(構成:樺山美夏)

優れたリーダーはみな小心者である。Photo: Adobe Stock

チームの生産性の高さは「会議を見れば一目瞭然」

 会議の場で次のような不満を感じたことはないだろうか?

「情報共有ばかりで会議の目的がわからない」
「意見を言っても否定されるだけ」
「決まったメンバーだけで話が進むから聞いているだけ時間がムダ」

 多忙なときほど「ムダな会議」に出たくないと思う人も多いだろう。

 日本生産性本部「労働生産性の国際比較2022」によると、日本人の労働生産性は1時間あたり約50ドルでアメリカ人の6割弱。OECD加盟国38カ国中27位となっている。

 その原因として真っ先に思いつくのが、「ムダな会議の多さ」だ。ムダな会議が多い会社ほど生産性が低いともいえる。

 自分のチームの会議を思い浮かべてみてほしい。その場の雰囲気や参加者の表情は明るいか? それともみんな下を向いて静まり返っているだろうか?

 リーダーが優れているか否かは「その人物が主催する会議を見れば一目瞭然」だと語るのは、世界約14万人の多様な部下を束ねてきたブリヂストン元CEOの荒川詔四氏だ。

「ダメなリーダー」ほど会議を制圧する

 本書によれば、ダメなリーダーの会議は重苦しい空気で支配されているのだという。

よく見かけるのは、リーダーの独演会になっているか、リーダーが信頼する数人のメンバーだけが発言しているケース。それ以外のメンバーが何かを口にしても、言下に否定されたり、途中で遮られたりする。その結果、萎縮したメンバーが押し黙っていると、今度は、「発言しない人間はいらない」などと追い詰められる。これでは、会議は死んでしまうに決まっています。(P.103-104)

 その結果、数人の偏った意見をもとに結論が下され、他のメンバーはイヤイヤながらその結論に従わざるを得なくなる。

 するとチームワークが生まれるどころかメンバーの士気が下がり、上司や仕事への不平不満が募るばかりだろう。

 こうしたムダな会議がいつまでも減らないのは、プレイヤーとして実績を出した人がリーダーになった途端、「自分は答えを知っている」「メンバーより自分のほうが優秀だ」と思い上がってしまうから。

「答えを教えてやらなければいけない」などとリーダーが“上から目線”になっていると、メンバーを制圧して会議を殺してしまうと荒川氏は指摘する。

「優れたリーダー」はわかったフリをしない

 では、小心者の優れたリーダーは何が違うのか?

 ひとつは、「昨日の正解が今日の不正解」になるビジネスの現実から目をそらさず、「自分には答えがわからない」と認める臆病さがある点だ。

「自分の考えは本当に正しいのだろうか?」「今まで成果を出せた方法もこれからは通用しないのでは?」と懐疑的になれる臆病な人は、メンバーの意見に真摯に向き合おうとする。

 あなたはどうだろうか?

 考え方も価値観も異なる部下の意見に耳を傾け、その時点での最適解を発見しようと集中する優れたリーダの会議には、「ポジティブな空気がみなぎっています」と荒川氏は続ける。

参加者全員が、「思ったことを発言してもいい」「もしも、的外れなことを言ってしまっても危害を加えられることはない」という安心感があるから、前向きで自由闊達な雰囲気が生まれるのでしょう。そして、さまざまな意見が飛び交うなかで、想定外の優れたアイデアが生まれる。リーダーが下した結論に対する納得度も高い。だからこそ、その結論を実行するチームワークが機能するわけです。(P.103)

 もちろん、部下に好き放題に発言させて収拾がつかなくなったら本末転倒だ。チームが秩序を保ち、発展的な議論を交わすために不可欠なのは「正しい目的意識」である。

 リーダーの役割は、メンバーが正しい目的意識をもつように働きかけ、その目的達成のための主体的な取り組みを励まし続けることなのだ。

メンバーを主体的に動かす

 一方、ダメなリーダーは権力や圧力でチームを統制し、目標達成を強制しようとする。

 実は荒川氏も、入社2年目でタイ・ブリヂストン工場の在庫管理改革を任された際、「舐められたらダメだ」と気負って、強い姿勢で現場に指示命令を下したことがあった。

 これがタイ人従業員の猛烈な反発を食らったため、まずは1人ひとりと丁寧なコミュニケーションを重ねながら、「どうすればいいか?」を一緒に考えはじめた。

 同時に、従業員たちと一緒に身体を動かし汗をかいているうちに、彼らが主体的に改革を進めるようになったと本書で回顧している。

メンバー1人ひとりの主体性を尊重することで、チームが自然に動き出す状況をつくる。こうして結果を生み出していくことこそがリーダーシップ。そのためには、相手の気持ちを思いやる「繊細さ」こそが武器になるのだ、と気づいたのです。(P.6)

 24歳の若さでこの「世界共通のリーダーシップの基本」を身につけた経験が、その後、海外事業を飛躍的に成長させ、さまざまな改革を成功に導いた著者の原点なのだ。

「自分は答えを知らない」という謙虚な姿勢で、相手の話を「傾聴」する。

 このたった1行のルールは、一見、簡単そうに見えていざ実行しようとすると難しいかもしれない。

 特に成功体験の多いリーダーほど自信やプライドがあるため、自分と違う意見や考えにどう向き合えばいいのかわからないだろう。

 そういうリーダーこそ、「小心者」でなければ生き残れないと語る著者のメッセージに、まずは耳を傾けてみてはいかがだろうか。

 本書には、マネジメントで迷走したとき、向かうべき方向を示してくれるヒントが詰まっている。