コロナ前を上回る
混雑が生じる可能性も

 ただ「新しい生活様式」の影響で通勤需要が大きく減少しているのも事実だ。国土交通省の混雑率調査によれば、2019年のピーク1時間の平均混雑率は大宮口(北大宮→大宮駅間)が123%、柏口(初石→流山おおたかの森駅間)が132%、船橋口(新船橋→船橋駅間)が138%だった。

 これに対して2023年調査では、大宮口(北大宮→大宮駅間)が101%、柏口(初石→流山おおたかの森駅間)が93%、船橋口(新船橋→船橋駅間)が116%。輸送量で比較すると大宮口が75%、柏口が70%、船橋口が91%となる。2023年の輸送力を83%として混雑率を計算すると、大宮口が122%、柏口が112%、船橋口が140%となる。大宮口、船橋口はコロナ前と同等の混雑率だ。

 2024年度はさらに回復傾向にあるため、今後はコロナ前を上回る混雑となってしまう可能性がある。輸送量の減少に対応して輸送力を調整しただけと言えばそれまでだが、コロナ禍以降の混雑緩和に慣れていた利用者としては釈然としない部分もある。

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 東武は混雑が悪化した場合、列車を増発して対応すると説明している。混雑率調査の数値は最混雑区間のピーク1時間の平均混雑率を示しているため、例えば大宮口であれば、ピーク1時間の最初ないし最後に岩槻駅始発大宮駅行の区間列車を設定すれば、北大宮→大宮間の輸送力が増加し、混雑率は低下する。これでは利用者にとって実感がない「改善」だ。

 もちろん東武の方針はコロナ禍の影響だけでなく、首都圏近郊で進む人口減少を見据えたものだ。コロナ禍以降、都心では定期利用が大きく減少したが、定期外利用はむしろ越えている。一方、地方では定期利用の減少は大きくないが、定期外利用は回復していない。

 東京圏の人口は今後20年程度は現状維持の見込みだが、郊外では人口減少が加速している。東京都心30~40キロ圏をぐるりと回る野田線は「アーバン」と「パーク」の両方の特性を持つ路線である。

 東武スカイツリーラインを含めてコロナ禍以降、減便と復便を繰り返す路線は多いが、サービスを維持しつつ全列車を減車する取り組みは野田線が初めてといってよい。

 前例がないだけにさまざまな課題が想定される上、減車により資本費、経費がどれほど削減されるのか不透明な部分も多いが、意義のある挑戦なのは間違いない。鉄道業界に関わる身として、沿線民として、成り行きを見守りたい。