「この病気について知ってほしいという思いで作りました」。統合失調症の症状が現れた姉と、彼女を精神科の受診から遠ざけた両親の姿を20年にわたり記録した話題のセルフドキュメンタリー『どうすればよかったか?』の藤野知明監督は、映画を完成させた理由をそう語った。「実際に親が認めず、長い間未受診の末、救急に運ばれる患者さんはいます」と話すのは、東京都立松沢病院名誉院長で精神科医の齋藤正彦さんだ。前回の藤野監督インタビューに続き、齋藤医師に、100人に1人が発症する身近な「統合失調症」の実情について聞いた。(取材・文/編集者・ライター 西野谷咲歩)
統合失調症が色々な意味で
「深刻な病気」である理由
映画『どうすればよかったか?』(https://dosureba.com/)では、医師で研究者の父と母が娘の統合失調症を認めず、両親は発症から25年にわたり精神科の受診を妨げた。
統合失調症の患者さんと40年以上にわたり向き合ってきた齋藤さんは、「今では少なくなりましたが、家族が抱え込んでしまい、両親が亡くなった後に未受診の息子や娘が残されるケースもありました」と明かす。
統合失調症だと認めたくない――。それが最大の理由ではないか、との見解を示す。「親に負い目があるのでしょうね。遺伝病だと誤解して自分のせいかもしれないという誤った罪悪感から、病気だと認めない人もいます」
このようなケースもあったという。
「40歳近い娘を、両親は統合失調症と認めない。時々、激しい暴力を振るわれると110番します。すると警察は明らかに様子がおかしいので、精神科病院に連れて行き、措置入院(自分や他人を傷つける恐れがある場合、本人や家族の同意なしに都道府県知事などの権限で入院させる)になる。翌日、両親が病院に来て『薬を使うな。この子は病気じゃない』と退院させようとします」