「誰かに命を狙われてる…」実は身近な統合失調症、幻聴や幻覚は薬で治る?【精神科医が解説】東京都立松沢病院名誉院長で精神科医の齋藤正彦さん

 思考や行動、感情を一つにまとめていく(統合する)能力が低下し、多くの場合、学業や仕事を含む社会生活に影響を及ぼす。

 発症年齢は、10代後半から30代が多い。一般的に、発症年齢が高ければ症状は軽い傾向にある。服薬しながら仕事を続けられるケースも多い。

 20年における日本の患者数は約88万人と推定されている。うち、入院患者数は約14万人。その中で1年以上の長期入院患者は約11万人(厚生労働省「患者調査」(2020年))だ。精神疾患のある入院患者数、約29万人のうち統合失調症は疾患別で見ると最も多く、減少傾向にはあるものの約半数を占める。

「遺伝する」のは本当か?
いまだ謎に包まれた発症原因

 発症の原因は解明されていない。神経伝達物質の一つである「ドパミン」の作用が過剰になると、幻覚や妄想が起こりやすくなる。そのことから統合失調症の発症にはドパミンが関係しているとした「ドパミン仮説」が有力とされていた。しかし、陽性症状は説明できるが、陰性症状はできない。

 遺伝については、親や兄弟姉妹が統合失調症の場合、発生リスクは約10%となり、一卵性双生児の一人が統合失調症だと、もう一人の発生リスクは約50%になるとの報告もある。そのため、生まれつき統合失調症になりやすい体質の人が、ストレスなどの環境要因が引き金となり、発症すると考えられている。とはいえ、その限りではない。

 発症の原因やメカニズムについてはいまだ不明で、根治薬も開発されない――。これらのことから、統合失調症は、近現代の精神医学において「最重要課題」とされてきた。「研究者は若干、手詰まり感を覚えているのではないか」と斎藤さんは話す。

 国際的な調査結果によると、平均余命は一般の人に比べ、14.5年ほど短い。死因は循環器疾患が多いとされるが、統合失調症患者の約5~6%が自殺し、約20%が自殺を試みるとの報告もある。

 統合失調症と診断された後は(診断基準は表を参照のこと=DSM5-TR)、主に、薬物療法と心理社会的治療を中心に行う。前者は、陽性症状を抑えるため、また再発を防ぐために、必要とされている。主に脳内のドパミンを抑える「定型抗精神病薬」が使用されていたが、2000年前後には、ドパミンだけでなく、セロトニンなども抑える「非定型型精神病薬」が登場し、効果も副作用も改善された。