
近年、世間を騒がせている芸能界の性加害問題。とくに日本の映画業界は、事前の相談なしに激しいラブシーンの撮影を俳優に要求したり、キャスティングへの影響を考えて“ハラスメント”を受け入れざるを得ない状況になったりと、当事者が苦しみを抱えやすい状況にあるという。映画監督として現場に携わる深田晃司氏が、撮影時に発生しがちなセクシャルハラスメントを例に解説する。※本稿は、深田晃司氏『日本映画の「働き方改革」現場からの問題提起』(平凡社)の一部を抜粋・編集したものです。
性被害の背景にある権力勾配
映画業界のセクシャルハラスメント
セクシャルハラスメント(セクハラ)について。ここでひとつの例題を挙げたい。
「ある映画の撮影中、大道具のベッドの上で俳優たちがスタンバイし、四方八方に立てられたライトから俳優たちに光が当てられている。裸で抱き合う男女のラブシーンで、カメラは女性の俳優の背中側から撮影をすることになっていた。俳優たちにもそういった演出プランが事前に説明されていたが、撮影が始まってからほどなくして監督は新たなアイディアがひらめき、急遽カメラを抱き合う男女の横に据えたいと提案をした。そうするとふたりの胸はカメラに写ることになる。その場で演出プランの変更について助監督より俳優たちに説明がなされ、しばらくし、俳優たちは変更を承諾し、撮影は無事に続けられた」
さて、この一連の流れを読んで、皆さんはどう思われたであろうか。
はたしてこの状況は本当に「無事」だと言えるのだろうか。
映画業界におけるセクシャルハラスメント、性加害の問題は根深い。
性被害者がその被害を告発し、その告発が大きな連帯を生んでいった#MeToo運動がアメリカで巻き起こったのは2017年のことであるが、その震源地となったのがまさに映画業界であった。ハリウッドの大物プロデューサーが、長年にわたるセクシャルハラスメントを複数の女性から告発され実刑判決の末に収監されることになった。
その後、韓国や日本でも同様の告発が相次いだ。被害加害の関係性においてやはり目立つのが、キャスティング権を握る側(プロデューサーや映画監督)からキャスティングされる側(俳優やタレント)への性加害であり、その背景にあるのは両者の間にある大きな権力勾配である。
プレッシャーがかかる状況下で
判断の自由を奪い、答えを誘導
事例の撮影の場面に戻りたい。この状況は「無事」といえるのか。「否」であると私は考える。