「表現の現場調査団(以下、調査団)」が映像を含む表現分野をスノーボール方式で横断的にアンケート調査を行った結果が掲載された「「表現の現場」ハラスメント白書2021」では、アカデミックハラスメントについても結果を公表している。アカデミックハラスメントとは「大学などの教育研究の場において、優位な立場を利用して教育指導の適正な範囲を超えて精神的身体的苦痛や不利益を与えたり教育環境を悪化させる行為」のことである。結果、回答者1449名のうちの約4分の1がアカデミックハラスメントを経験したと回答している。なお、分野別の回答も掲載されているが、ハラスメントにおいて映画業界は特に酷く、他分野と比較しても見るに堪えない(しかし目を背けてはならない)、過酷な結果が示されている。
美術大学や映画学校などの教育機関におけるハラスメントの問題は以前から指摘は多い。調査団は2022年に、芸術系の大学における講師と生徒のジェンダーバランス調査を実施し、私は映画分野の調査担当者として参加することになった。結果、指導的立場にある人間の男性比率の高さなどが明らかになり、男性中心のホモソーシャルな環境とジェンダーバランスの不均衡がハラスメントを誘発する一因であると調査団は指摘している。
「action4cinema/日本版CNC設立を求める会」は、2022年に「映画業界において現場責任者が講じるべきハラスメント防止措置ガイドライン草案」を発表、2024年現在、公式サイトから「ハラスメント防止ハンドブック」がダウンロードできるようになっている。そのガイドラインの特徴は、ハラスメント防止措置を撮影現場などの責任者のみならず、いわゆる俳優教育などのワークショップの主催者にも求めている点にある。

このガイドライン草案を監修した四宮隆史弁護士は、職業柄様々な被害者からの相談を受ける立場にあるが、彼もまた現実として、俳優が深刻な性被害を受ける場所は撮影現場よりもその外であることが圧倒的に多いと指摘する。
撮影現場の安全を高めることは大切だが、それだけでは被害はなくならない。