アニメの主題歌への起用だけが
ヒットの理由ではない
近年、各種動画配信サービスの普及によって、日本のアニメを楽しむ人は国内外を問わずに拡大した。その流れの中で、日本アニメの注目作に起用された楽曲がヒットするケースも増えている。もちろん、注目作に起用されただけでヒットするかというとそうではないだろう。前述のとおり《アイドル》は、放送開始前から注目されていたアニメの主題歌であったが、この楽曲がヒットした背景については単なるアニメ主題歌への起用だけでない、いくつかの要因が考えられる。
そのひとつは音楽性だ。この楽曲の目まぐるしい展開やサウンドメイクは、日本人のみならず世界中の人々に新鮮さを感じさせるものだった。冒頭からインパクトのある打音とラップ調の歌で始まり、それに荘厳なオーケストレーションが続く。そして、サビ前には日本のアイドルソングの系譜に沿ったクラップ&コールを入れ、サビはボカロなどのネット系音楽のような進行も感じさせる。さらに曲の中盤ではビートダウンしダークになり、トラップメタル的な曲調の展開も導入されている。
楽曲の構造とMV演出も
グローバルヒットの要因
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博報堂DYグループコンテンツビジネスラボ 著
こうした多くの音楽的な文脈を感じさせる目まぐるしさがありながら、巧みに一曲として成立していることが新鮮さを感じさせる理由だろう。さまざまな楽曲のいい部分を抽出して新しい体系を作り出すエクレクティシズム(折衷主義)的な楽曲の構造は、グローバルヒットにまで至った大きな要因のひとつであると考えられる。
また、YouTubeで公開したMVもヒットの要因のひとつと考えられる。YouTubeのMV再生回数は5億回を超え、多くのコメントを集めている。日本のネット発とも言えるリリックビデオ(歌詞を中心に構成されたMV)の系譜も感じさせるこの映像は、公開当初からアニメのストーリーを汲んだ歌詞や演出が反響を呼び、その歌詞や演出意図を探る考察も多く広がった。これは前項でも触れたとおり物語から楽曲に落とし込むYOASOBIが、アニメ作品の主題歌を担当したからこそのことであると考えられる。
このように楽曲《アイドル》はアニメ主題歌という点だけに限らず、さまざまな文脈を併せ持つ音楽性、映像の要素がフィードコンテンツを生むポイントとなり、グローバルヒットにつながっていたのだと考えられる。