これでは、自分の思いや意見が言語化されることや、新たな気づきを得ることも難しくなってしまいます。

 また、あとで振りかえると、相手に話を聞いてもらったというより、自分で話した内容に自分で深くうなずいていた、なんて経験をしたことはないでしょうか?

 相手からの問いかけに、なんとなく答えているうちに、今まで気づかなかった思いや意見が、ふと自分の口から出てくる。「ああ、自分は、こう感じていたのか」と自分でもおどろき、そして、納得する。そのように、自分でもつかめていなかったモヤモヤが言語化されたことで、気持ちがスッキリする経験です。

 これは、実はカウンセリングを受けたときの感覚と似ています。

 カウンセラーは、相談者にアドバイスをすることは、あまりありません。あくまで、相談者が自分の語りのなかで、自分の本当の思いや意見に気づき、思考を整理する時間を提供しているだけです。

 頭のなかを言語化していくうえでいちばん大切なのは、人に話を聞いてもらうことよりも、思いや意見が言語化されやすい環境を整えることです。

 自分で自分の話を聞けば、その環境は24時間、いつでも用意できます。

家族よりも親友よりも
本音で話せる相手は「自分」しかない

 もしかしたら少しさびしい話かもしれませんが、あなたが心から本音ですべてを話せる相手は、結局のところ、あなた自身しかいない。私は、そう思います。

 信頼している同僚であれ、絆で結ばれた家族であれ、長年の友人であれ、自分のことを包みかくさず、いつでも、どこでも、なんでも話せる相手など、そうそういるものではありません。もしいたとしても、相手も自分も忙しくて、なかなかゆっくり話を聞いてもらう時間はない。それが現実ではないでしょうか?

『こうやって頭のなかを言語化する。』(PHP研究所)『こうやって頭のなかを言語化する。』(PHP研究所)
荒木俊哉 著

 そうなると、「こんな話をしたら、相手は、どう感じるだろう」「忙しくしているのに、迷惑にならないかな」などと考えて、話す内容や時間を自分でついセーブしてしまうことになります。結果として、自分でも気づかなかった思いや意見が言語化されることも難しくなるでしょう。

 しかし、話す相手が自分であれば、その心配は一切無用です。

 遠慮なく、すべてをさらけだせるし、言葉になっていない心の奥にあるモヤモヤをじっくり聞いてもらうこともできます。

 以上、なぜ他人ではなく、自分で自分の話を聞いて言語化したほうがよいかについて、2つの理由をお話ししました。つまり、「言語化とは、自分へのセルフカウンセリングだ」と、私は考えています。