ビジネスパーソン写真はイメージです Photo:PIXTA

大学を卒業、同じ会社で定年間近まで勤め上げた同期2人。「60歳になったら定年退職、勤め続けたければ給料は下がるが再雇用で65歳まで」が会社のルールだと思っていた。ところが同期は「定年を延長し、65歳まで今の役職・条件のままで」と言われたという。同期入社なのに定年退職の年齢や条件が違うなんてことはアリなのか。そもそも、再雇用と定年延長の違いとは?(社会保険労務士 木村政美)

<甲社概要>
都内にある設立60年の精密機械製造・卸売会社で従業員数300名
<登場人物>
A:60歳。製造課長で今年3月末に定年を迎える
B:60歳。Aとは同期入社で設計課長
C:総務部長で人事・労務担当の責任者
D:甲社の顧問社労士

「60歳で定年退職、会社に残るなら65歳まで再雇用」のはずが……

 1月上旬の昼休み。AとBは休憩室で並んで一緒に弁当を食べていた。先に食べ終えたAは、しみじみとした口調で言った。

「俺たちもあと2カ月で定年か……。思えば入社してからあっという間だった。4月からは再雇用社員になるけど、課長を降りる分仕事は楽になるからゆっくりできそうだ。Bは確か会社を辞めて奥さんの実家に引っ越すんだよね。会えなくなるのは寂しいよ」

 しかしBの反応は意外だった。

「俺、やっぱり会社に残ることにしたよ。昨日C部長から『定年後も設計課長を続けてほしい』と熱心に頼まれてね。迷ったけど、夜カミさんに相談したら賛成してくれた。これからもよろしく!」
「本当?それは大歓迎だよ。でも課長を続けるなんて大変じゃない?休みは相変わらず少ないし、再雇用社員は今より給料やボーナスが下がるだろ」
「C部長の話では65歳まで定年を延長してくれるそうだ。給料やボーナスは今までと同じで、退職金も65歳時まで勤めたとして計算するって」

 Bが所属する設計課は自社製品の他、取引先からの製造依頼も受注するなど、部品の設計には特殊技能が必要だ。10人いるメンバーは20代、30代前半が多い上に、Bの後任者だった40代の主任が家庭の事情で12月末に退職してしまい、Bが持っている高いスキルや経験を今すぐ継承できる部下がいなくなった。現状を憂いたC部長は甲社長と相談し、Bだけ特別に65歳まで現職のまま残り、部下の指導を続けてほしいと頼み込んだのだ。

「えっ?会社の定年は60歳のはず。なぜBだけ65歳?」

 Bの言葉に心がざわついたAは、昼休みが終わった後、自席で会社の就業規則の内容を確認した。