「定年は60歳の年度末。その後は1年更新の再雇用制度を利用して65歳の年度末まで勤務可能と書いてある。定年は65歳なんて書いてないぞ」
そして机の引き出しから、C部長に渡された再雇用契約に関する文書を取り出した。
「自分の場合、『現在の基本給は50万円だが、再雇用後は主任待遇になるので30万円に下がる』『ボーナスは年2回で基本給の1カ月分ずつ支給する』『退職金はなし』と書かれている。Bが現役と同じ待遇なんてありえない」
二人は同期で課長だけど、社内での状況が違う
2人は共に大学卒業後同期で入社し、部署は違うが長い間一緒に働いてきた。課長に昇進したのも同じ時期なのに、Aにはこれまでの定年社員と同じ再雇用契約、Bだけが定年延長を提示されたのだ。その処遇に納得できないAは、次の日の朝C部長に、「昨日Bさんから定年延長されたと聞きました。しかし私は再雇用の話しか聞いていません。私たちは同期入社で共に課長です。どうしてこんな不公平な扱いをするのか納得できません」と言いに行った。
C部長は少し黙り込んだ後、深いため息をついて答えた。
「君たちは確かに同じ課長だよ。しかし社内での状況が違うんだ」
「どう違うんですか?」
「B君は入社してからずっと設計課にいて、現状、彼の経験やスキルを担ってくれる後任者がいない。次期課長の候補者は退職したし、あとの社員は全員若手で課長にするのは早い。だから彼には部下の育成のため、あと5年課長を務めてもらいたいんだよ」
確かにBは仕事ができるし人望も篤い。その評価は納得できても、自分と比較された気がしてくやしい。不服そうな顔をしているAにB部長は話を続けた。
「製造課はメンバー数が多いし、君の後任者もすでに決まっている。だから再雇用後は現場リーダーとして仕事に励んでくれ」
「しかし、定年延長なんて就業規則には書いてありません。それに私だって会社のためにがんばってきました。Bさんだけ特別ですか!自分も定年延長にしてください」
BがAに定年延長の話をしたこともだが、温厚な性格のAが怒りをあらわにしたことでC部長は頭を抱えた。
「このままだとA君はやる気をなくしてしまうかもしれない。製造部門だって人手が足りていないのに、退職されたらどうしよう……」