
アフリカ系アメリカ人やヒスパニックについての書物は数多存在するが、それに比べるとアジア系アメリカ人を取り上げたものはごく僅かである。アジア系移民の子どもである詩人、キャシー・パーク・ホンは、そんなアジア系アメリカ人の「マイナーな」感情を描いた。「世界で最も影響力のある100人」に選ばれた彼女が、反中国人運動の最中に生きた中国移民たちの歴史を辿りながら、現代のモデルマイノリティの地位の変化を綴る。※本稿は、キャシー・パーク・ホン(著)、池田年穂(訳)『マイナーな感情 アジア系アメリカ人のアイデンティティ』(慶應義塾大学出版会)の一部を抜粋・編集したものです。
アジア系アメリカ人のことを
アメリカ人は何も知らない
ほとんどのアメリカ人は、アジア系アメリカ人については何も知らない。彼らは「中国人」が「アジア人」の提喩(シネクドキ)であると思っている。ティッシュを「クリネックス」と呼ぶようなものだ。私たちが多くの民族からなる希薄な同盟であることを知らない。アジア系アメリカ人社会における「われわれ」(we)に関わる資格は、それこそたくさんあるのだ。
東南アジア人、南アジア人、東アジア人、太平洋諸島人、同性愛者か異性愛者か、ムスリムか非ムスリムか、富裕層かそれとも貧困層か……。アジア人は例外なく自己嫌悪を抱いているのか?もしも私の自己まで解体しかねないエゴは、人種的な現象ではなく、私自身のいまいましい問題だったとしたら?
「韓国人は自己嫌悪を抱きがちね」とあるフィリピン人の友人がお酒の席で私をいさめた。「フィリピン人はそこまでじゃないわ」。
自己嫌悪はアジア系アメリカ人の際立った特性である。だって、いくらかの者はどのマイノリティグループより経済的にうまくやっているにもかかわらず、社会の注目を浴びる存在であることはまずない。事態は少しずつ変わっているとはいえ、政治、エンターテインメント、メディアの分野ではほとんど存在しなかった――芸術でも同様だ。
ハリウッドはいまでもアジア人を差別しているので、私は映画を見る際、たまにアジア人のエキストラが登場すれば、中国人(チンキー)に向けられたジョークに身構えてしまい、それが1つも登場しないとほっと胸を撫でおろす。
さらに、アジア人はどのマイノリティグループと比べても収入格差が大きい。労働者階級のなかでアジア人は縫製産業やサービス業界の目に見えない奴隷で、第三世界のような労働環境と最低賃金にも届かぬ賃金で働かされているのに、縮小する福祉国家のなかで苦しんでいるのは白人の労働者階級だけだ、と思われている。
だが私たちが不満を口にすれば、アメリカ人はいきなり訳知り顔になる。なぜそんなに不満なんだ!あんたがたは次の白人になる存在なんだ!まるで私たちが生産ラインに一列に並ぶiPadみたいな言い方だ。