当時のアメリカ合衆国は、PRの問題を抱えていた。もし彼らが、貧しい非西洋諸国に広がる共産主義の潮流を撲滅したいなら、自らのジム・クロウ法(編集部注/1964年までアメリカ南部諸州で制定されていた黒人差別法)的なレイシストイメージを刷新し、自分たちの民主主義が勝っていると証明する必要があった。
その解決法は、非白人たちを自分の国に招いて自分たちの目で見させることだった。こうした時期、「モデルマイノリティ」の神話が共産主義を――それに黒人も――けん制するために拡散された。アジア系アメリカ人の成功物語は、資本主義を促進し、黒人の公民権運動の信憑性を弱めるために広められた。
つまり、私たちアジア人は多くを求めず、勤勉で政府からの施しを求めないから「良き」市民とされたのだ。アメリカは、あなた方がこちらの言いなりで勤勉に働くかぎり差別は存在させない、と私たちアジア人に言質を与えたのだ。
だがわが国のモデルマイノリティの地位は変化してゆくものだ。現在、インド系アメリカ人はアジア系アメリカ人のうち最も高収入のグループに属するが、9・11以降、とりわけここ数年は、彼らは格下げされている、ないしは彼らの方で「褐色人種」と自認し始めている。アメリカの人種化(レイシャライゼーション)(人種に基づいて個人を分類・差別すること)にはおかしな点がある。日本が朝鮮と中国の一部を植民地化し、第2次世界大戦のあいだにフィリピンに侵攻したことは問題ではない。
またインドとパキスタンのあいだにカシミール地方を巡って長きにわたる血なまぐさい国境紛争があることや、ベトナム戦争以来ラオス人たちがモン族を組織的に大量虐殺してきたこともどうでもよい。アジアの国がほかのアジアの国々とどのような覇権争いをしていたとしても――そのほとんどは西洋の帝国主義と冷戦の影響だが――それらは、違いさえわからぬアメリカ人によって、スチームローラーをあてられたように平板なものにされてしまう。
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トランプが大統領に選出されて以来、アジア人、とりわけムスリムやムスリムのように見えるアジア人へのヘイトクライムが急増した。
2017年に白人優位主義者が2人のヒンズー教徒のインド人エンジニアをイラン人のテロリストと間違えて撃ち殺してしまった。翌月、シーク教徒のインド人が、シアトル郊外の自宅のドライブウェーを出たところで「ゴーバックトゥユアオウンカントリー」と罵られたあとに銃で殺された。