「会社法」や「宗教法人法」はあるのに
「政党法」がない日本
![おふたり(田原氏1)](https://dol.ismcdn.jp/mwimgs/d/d/2000/img_ddc186318d09f2ff75e97f4a635683941698721.jpg)
竹中 会社には「会社法」という法律がありますし、宗教法人には「宗教法人法」という法律があります。そこには会社や宗教法人のカバナンスについてきちんと規定があるのですが、政党には政党法がないんです。
田原 海外には政党法ってあるのでしょうか?
竹中 あるところとないところがあります。ドイツなどはありますし、フランスやイギリスは政党法とは言っていませんが、一種の監視機関みたいな仕組みがあります。
今、日本では、自民党の総裁を決めるのに、自民党員で半分投票し、国会議員で半分投票し、それでも決まらなければ、第2次選挙として、主として国会議員のみで決めています。自民党の代表を、国会議員がほぼ決めてしまっている状態です。自民党の党員になったとしても、その影響力は極めて小さい。
このことは何を意味しているかというと、これほど、トップを選ぶにあたって、該当の政党の党員の役割が小さい国って、まれなんです。
例えばイギリスでは、「代表の候補」は国会議員が決めますが、さあその中で誰にするか、というのは、党員による投票で決めます。そっちの方がよっぽど民主的ですよね。もちろん国によって政治のシステムはさまざまですが、日本のように、いつもお金の話が政治で問題になっているのであれば、きちんと政党法をつくるべきなんです。
ちなみに日本は1979年に、当時の大平正芳内閣が、新自由クラブ(※)と政策協議をした際の合意の中に、政党法をつくるという項目があったんですよ。1970年代、当時の首相たちは、政党法の成立をまじめに考えていた。
※河野洋平、西岡武夫、山口敏夫、有田一寿らによる超派閥グループが1976年に結成。1986年に自民党への合流に伴い解散した
でも、政党法ができたら政治家は嫌ですよね。行動が縛られるわけですからね。会社法も、1年に1度、株主総会を開けとか、事業報告書を作成しろだとか、社長さんにとっては、やることが増えますし、行動も制限される。ですので、政治家は嫌がるんです。
でも国民からすると、政党というのは公的な支援も受けていますし、重要な役割を果たす組織なので、きちんとしたガバナンスのルールを定めてしかるべきですよね。どのように設立して、どのようにトップを極めて、どのように会計報告するか。こんなことは会社法では当たり前のことです。でも、政党にはそれがないんです。
そういう根本的な議論をしましょうというふうに、私はいつも申し上げるのですが、やはりそのあたりは触れられたくない議論だと思っている人が多いようです。
田原 だから嫌われてしまうわけですね。国民からしてみればまともなことを言っているのに。
竹中 法律をつくる、法律を変える、ということは、既存の制度を変えるということですよね。ですから、「根本的に制度を変えよう」という意欲のあるリーダーが出てこない限り、日本のこの状況は残念だけど続いていくのだと思います。
田原 自民党は、制度を変える改革ができなくなってしまっていますね。これまでずっと自民党政権が続いているので、それを行うと、過去を否定することになると思っている。その点、小泉(純一郎元首相)さんはすごかった。自ら「自民党をぶっ壊す」と言っちゃうんだからね。
竹中 そうなんですよ。小泉内閣の時に、国会答弁で、菅直人さんから私にこういう質問が出たんです。「竹中さん、あなたは改革する、改革するって言っていますが、それは今までの自民党の政治が間違ってたということか」って。私、イヤな質問だな、困ったな、と思って答弁台ヘ向かっている時に、小泉さんが後ろから「言っちゃえ! 言っちゃえ! 小泉内閣は全部変えるって言っちゃえ!」とささやいてくれたのをよく覚えています。
田原 実は、小泉さんが自民党総裁に立候補した時、小泉さんとこういう話をしたことがありました。
それまでの田中角栄派の金権政治を全面的に否定するというのであれば、僕は全面的にあなたを応援する。でもそれを公言して進めるのであれば、あなたは政治生命がなくなるかもしれないし、最悪、暗殺されるかもしれないぞ、と。そしたらね、「田原さん、私は日本を良くしたいんだ。たとえ殺されても言う。それで総裁になったら、私が自民党を根本から変えてみせる」と。
竹中 そうでしたね。官僚というのはやはり無謬性(むびゅうせい)を求めますが、政治家というのは総理が代わったら今の制度、つまり仕組みを変えていいはずなんですよ。政権が継続するのであれば、その法律を引き継いで、必要があったら変えればいい。政治家はそれができる唯一の存在なのですから。
「収奪している制度」が
トランプ現象を生む原動力に
竹中 先ほどから私は制度、制度と言っていますが、「年収の壁」をいくらにせよ、というレイヤーの話ではなく、制度そのものを変えなければいけない、ということです。
![【竹中氏】](https://dol.ismcdn.jp/mwimgs/6/e/2000/img_6ea075e93b5c3d006acc9b19b19e0d361514397.jpg)
去年、経済学者のダロン・アセモグル氏がノーベル経済学賞を受賞しました。この人はもともとトルコの人で、日本ではあまり知られていませんが、MIT(マサチューセッツ工科大学)の教授で大変有名な方です。彼は、「制度こそが重要である」ということを、しきりに言っているんです。
例えば、朝鮮半島に注目してみる。同じ民族で、同じ言葉を話す人でありながら、北と南で所得や1人当たりのGDPが数十倍違う。それはなぜかというと、制度が違うからだと。
アメリカのアリゾナ州の一番南にノガレスという街があり、メキシコのソノラ州の北にもノガレスという街がある。1953年に、アメリカ大陸横断鉄道の建設などの目的で、アメリカ側がメキシコ側の一部の領土を買ったんですね(※結局、鉄道は建設されたなかった)。それで、ノガレスという街が分断された。同じ街なのに、アメリカのノガレスは、メキシコのノガレスよりも、所得が3〜4倍も高いんです。それはなぜかというと、制度が違うからだと。
民主主義や資本主義であることは当然ながら、市場の力と「開かれた制度である」ことが重要であると。
一方で、反対に悪い制度はどういうものかというと、「収奪している制度」だというんですね。収奪、つまり奪われていると。
例えば私たちは、政治に参加したり、選挙に参加したりする権利を持っています。投票することができますし、立候補することもできます。でも中国ではその権利を中国共産党が「収奪」しているわけです。アメリカでは何が起こっているかというと、東海岸の金融関連の人と、西海岸のIT関連の人が、私たちの利益を「収奪」していると、国民の不満が高まっている。自分たちは利益から取り残されているんだと。それがトランプ現象を生む原動力となっている。
この「収奪」という概念が、アメリカでもヨーロッパでも、そして日本でも、今、ものすごく高まっているんです。
田原 中国やロシアはわかりますが、アメリカはなぜ「収奪している制度」となるのですか?
竹中 技術の進歩が早く起きている時は、結果的に、チャンスに恵まれている人と、そこから取り残される人とで、どうしても差が出てしまうんです。
日本でもそうですよね。ITやデジタル機器を自由に操る人もいれば、地方の高齢者など、いまだにスマホをお使いにならない人もいる。すごい差が出てくる。そうすると、自分たちは取り残されている、収奪されているという概念を持つわけですよ。それが今の民主主義を非常に危うくするのです。
政治資金の問題も、裏金というよりは不記載ですが、「自分たちは収奪されているんだ」という国民の被害者意識をものすごくあおってしまった。
田原 日本は企業の従業員の約4割が非正規雇用といいます。給与が安く、生活が苦しいという人が増えている。物価がどんどん高くなっていく中、貧困生活がどんどん広がっているわけです。でも給料もそれほど上がっていません。これはどうすればいいでしょうか?