「関税」で脅しをかけるトランプ大統領
2025年の日本経済はどうなっていくのか?
![【田原さん】](https://dol.ismcdn.jp/mwimgs/d/1/2000/img_d199f49c6376b77c2498c85846302a851722406.jpg)
田原 2025年の日本経済はどうなりますか?
竹中 大統領に返り咲いたトランプ氏がどう出るかでしょう。これは私も何とも言えませんし、皆、わからないと言っていますよね。おもしろいのは、政府も民間も、日本経済の見通しはほとんど同じなんですよ。0.1%ぐらいしか違わない。
田原 そうなんですか。
竹中 皆、わからない、不確定要素が多い、と言うのですから、もっと見通しにばらつきがあるのかと思ったら、そうでもないんです。これは何を意味するかというと、結局、ものすごく現状維持的なものを前提として、当面の予測をせざるを得ないということなんだと思うんですよね。
日本経済が去年まではちょっと悪すぎたので、物価は少し落ち着くはずだ、石油価格もそんなに変わらない、そういうシナリオを描いた上で、今年は少しだけ良くなるだろうという見方をしているわけです。でもやはりすべてはトランプ次第ですよ。
田原 今までのアメリカの歴代大統領は、「パクス・アメリカーナ」のやり方でした。覇権国家であるアメリカが主導して世界の秩序を保つんだ、アメリカが世界を守るんだと。
でもトランプ氏は、世界の秩序よりも、アメリカを良くすることが第一だと、アメリカ第一主義を掲げています。なぜトランプ氏はこれまでのアメリカのやり方を否定したんでしょうか。
竹中 アメリカは、自分たちの力がなくなってきたことを自覚したんですね、バラク・オバマ政権の時に。オバマ氏は、私たちは世界の警察ではないと宣言しましたね。アメリカの国民たちからも、経済が弱くなる中、なぜ自分たちの税金で日本や世界を守らないといけないんだという不満が出ていた。一種のポピュリズムですよ、それは。そしてそれがアメリカの今の政治風土になっているんですよね。
![【竹中氏】](https://dol.ismcdn.jp/mwimgs/6/c/2000/img_6c795fe7685432c6b783460f3f7b66d91569773.jpg)
トランプ氏が賢いのは、何か言うたびに、関税、関税というワードを出してきますよね。これは、多分、関税を上げること自体が目的なのではなく、マーケットの脅威をさらすことにあると思うんです。
昔、日米摩擦の時に、アメリカは自国産業を守るため「スーパー301条」という、超保護主義の条項を振りかざした。あれは日本にとって非常に脅威でした。アメリカという巨大マーケットから締め出されてしまう。こうしたマーケット上の脅威を「マーケット・スレット」と言うんです。
トランプ氏は、実際に関税を上げずとも、達成したい、本当の目的があるわけです。そのために、「関税を上げるぞ、マーケットを閉めるぞ」と脅しをかける。日本や韓国にもっと軍事費を出させようとか、アメリカ国内に投資をさせようとか。
トランプ氏はディールの人(※)ですから、いろいろなことを発言し、国内や国外の意見を戦わせながら、どこを落としどころにするかということを、多分、考えていくんですね。そこをやはり、石破政権はしっかりと見抜いて、冷静にきちんと交渉していかないといけないと思います。
※もともと不動産王であり、安全保障や外交問題などをビジネス的な取引(ディール)の感覚で行っているといわれている
なぜ日本製鉄のUSスチール買収を阻むのか?
日本とアメリカの「安全保障」への意識のズレ
田原 なるほど。トランプ氏が再び大統領になって、今後、世界はどうなっていきますか?
竹中 トランプ氏が何をどこまでやるかは、誰もわかりません。私は今、注目しているのは、トランプ政権の中にはさまざまな大臣が指名されましたが、皆、かなりバラバラなんです。
もちろん、トランプ氏に忠誠を誓っているという点では共通しています。でも、財務長官に就任したスコット・ベッセント氏はもともとファンドの人で、高い関税にはむしろ反対なんです。国防長官に就任したピート・ヘグセス氏は強硬派で、とにかく世界に散らばったアメリカの軍を全部引き揚げると。大統領補佐官の安全保障担当のマイケル・ウォルツ氏は、元・陸軍特殊部隊(グリーンベレー)隊員であり、こてこての武闘派です。経済を重視する専門家のような人たちと、アメリカ第一主義が超強い人たちと、この間でどう調整していくのだろうかと。
田原 トランプ氏は、自分への忠誠を誓う人たちを大臣にする割には、その人たちはけっこうバラバラなんですね。
竹中 忠誠を誓うという点では一致していますが、経済政策に関してはかなり違いますね。例えば今回、トランプ政権下でイーロン・マスク氏が「政府効率化省(DOGE=ドージ)」という組織をつくることになりましたが、トランプ氏とマスク氏がいつまであんなに仲良くできるのかというのは、けっこう、懸念されていることではあります。基本的に両者の考え方はだいぶ違いますからね。
規制緩和を掲げているマスク氏は、EV(電気自動車)に関心があるのではなく、自動運転や宇宙に関心があるわけです。自動運転のために規制緩和を進めようとしている。一方で、日本製鉄によるUSスチールの買収をアメリカ政府が反対している。これってすごく規制していますよね。自由にやらせていない。
田原 バイデン氏が反対し、トランプ氏は逆に賛成するのかと思ったら、反対していますね(※)。
※本記事の対談実施日は1月8日。よって話題はその時点のもの。日本製鉄とUSスチールはこの件についてアメリカ政府を提訴し、2月3日に裁判が開始した。その後、2月7日にホワイトハウスで行われた日米首脳会談における記者会見で、トランプ大統領は、新日鉄がUSスチールの過半数株式を取得しないまま「多額の投資」すると述べている。石破首相もまた、2月9日、首相官邸で「単なる買収ではない。むしろ投資だ」との考えを示し、日米首脳会談でトランプ大統領にそうした意向を伝えたことを明らかにしている
竹中 一応そうですね。私がちょっと残念なのは、この問題を日本製鉄は、なぜ大統領選挙の年に出してきたのだろうということです。もちろん、ライバルたちの動きもあり、いろいろなところでいろいろな攻防があったと思うので、そうせざるを得なかったという事情もあるかもしれませんが、タイミングが悪かった。
日本製鉄は(粗鋼生産量において)世界で今、4位ですが、USスチールは24位です(※)。このままではUSスチールはつぶれる可能性だってあると思います。
田原 なぜバイデン氏は反対したのでしょうか。
竹中 「安全保障だ」と言っているんですね。日本という同盟国に対しての安全保障って、一体何だと、日本政府も日本製鉄も皆、びっくりしたんです。
しかし、いわゆるグローバリゼーションの時代での同盟国という意味と、一国中心主義の時代の同盟国の意味は、ひょっとしたら違うのかもしれない。そういうふうに受け止めて、私たちも考えをあらためないといけないと思うんです。
田原 日本は、自分たちの安全保障は全面的にアメリカに委ねていると思っており、その価値観はアメリカ側も同じだと思っていたら、そうではなかった。同盟国に対しても、警戒している。
竹中 はい。日本はそう思っていたのですが、一国中心主義になったアメリカにおいて、私たちが信頼していた同盟関係が今までのように通用するのかは、未知数です。
もし中国と台湾で有事があった際、アメリカがどこまでやろうとするのかも、読めない状況です。トランプ氏の政策は、トランプ主義、一国中心主義、保護主義など、いろいろな呼び方をされますが、私が一番恐れるのは、アメリカの孤立主義なんです。
1823年に当時のモンロー大統領が、アメリカとヨーロッパの相互不干渉を提唱した「モンロー主義」というのがあります。アメリカはヨーロッパのやることに干渉しない。だから我々のやることにも干渉しないでくれと。200年前のアメリカはもともとそういうスタンスだったんです。そしてトランプ氏は第1次政権の時に、モンローはまだ生きていると言っているわけです。
田原 これまで日本は、国防はアメリカの安全保障に任せ、経済活動に専念できた。それも危うくなってくる。
竹中 今の世界では、再びアメリカが「世界の警察官」にならないと、混乱が拡大してしまう。ウクライナの問題だって、アメリカが何とかしなければ収拾がつかない。ですから、アメリカの孤立主義が、一番怖いんです。
日本経済成長のカギは
中小企業のワークスタイル
田原 いろいろと不安要素はありますが、逆に、日本にとって希望は何かありますか。
竹中 世界経済というのは今、逆風ですね。原油価格が高くなって、戦争が起きていて、国連も機能しなくなっている。でも日本経済は今、ささやかな追い風が吹いていると思うんです。
経済成長率自体は低いですが、アメリカから見て、中国との関係やアジア情勢に対し、日本や韓国、台湾の役割はますます重要になってきています。その象徴の1つが半導体です。1980年代の日本というのは世界のシェアの50%以上を占めていた。1986年に日米半導体協定ができて、たたかれてたたかれて10%以下になってしまいました。でも、アメリカから、日本は半導体を再びがんばってくれという要請が来ています。
こうした追い風が今あるうちに、これまでお話したような本格的な制度改革をすれば、日本が生まれ変わるチャンスは間違いなくあるんです。
一方で、そこには、目の前の小さな利益に固執する既得権益の壁があって、この壁によって、日本の将来の大きな利益を逃しそうになっている。それが本当に日本が直面している壁であり、これを乗り越えられるかどうかがカギでしょう。
田原 今、コスト高や人手不足に悩む中小企業側は多いですが、企業側はどのような対策方法がありますか?
竹中 当たり前のことではありますが、まず第一歩は、省力化でしょう。どの会社でもそうですが、出張しようとしたら、出張命令をもらって、人事か総務に出張申請を出して、精算を行う。1つの出張でやることがいくつもある。でも、ひとつのプラットフォームで完結できるようなシステムもあるわけです。
特に地方の企業はまだまだ無駄な作業が多い。これまでと同じ仕事のやり方をずっとしている。イーロン・マスク氏は、アメリカの政府の職員の仕事の半分以上を減らすことができると言っていますが、本当に半分以上減らせるかどうかはともかく、省力化する余地のある仕事はたくさんあります。
これは、ワークスタイルを変える大きなチャンスなんですよね。英語の翻訳サービスやChatGPTなど、どんどん便利なサービスが生まれていますし、そういう意味での省力化というのは、本気になればかなりできると思いますよ、日本は。
日本のGDPの7割は、中小企業を中心に地方が稼いでいるんです。「トヨタの生産性を10%上げろ」と言われたらかなり大変かもしれませんが、「地方の企業の生産性を10%上げろ」なら、それほど難しくはないと思うんです。
7割のウェイトを占める地方が生産性を10%上げたら、日本経済は7%成長しますよね。そういうポテンシャルを、日本は持っているということなんです。
田原 本日はありがとうございました。
![【おふたり】](https://dol.ismcdn.jp/mwimgs/7/a/2000/img_7abfbe959b23231660a57ade1bf5cecd1836891.jpg)