このように、人に語ることで、凝り固まった視点が揺さぶられ、新たな視点のもとに心の中が整理されるというのは、じつによくあることです。だからこそ、悩んだり、迷ったり、不満が募ったりすると、人はだれかに話したくなるのです。
逆に言えば、だれかに語るような機会がないと、悩みや迷いや不満が心の中でますます増殖してしまい、建設的な判断ができなくなってしまいます。ゆえに、自分の思いを遠慮なく話せる相手を持つことは、前向きの人生を歩んでいくうえで、とても大切なことと言えます。
過去を共有できる友だちとの語り合い
気心の知れた学校時代の親しい友だちと語り合うのは楽しいし、心の癒やしにもなります。日頃仕事や家族のことでストレスがたまっている人も、気心の知れた友だちと会って語り合えれば、気持ちもすっきりし、ストレスも解消あるいは軽減されます。
気になっていることを遠慮なくなんでも話せる友だちとの語りの場では、前項で見てきたように、自分の中にない新たな視点を友だちが持っていたり、語り合いの中で新たな視点が表れてきたりして、これまでとは別の視点に立つことができるというだけではありません。
学校時代の親しい友だちなど、過去を共有できる友だちと語り合っていると、とても懐かしい気分に浸ることができ、気持ちが癒やされ、心のエネルギーの補充ができます。それによって日頃のストレスが解消され、翌日から新たな気持ちで現実と向き合えるようになります。
そのような旧友との語り合いは、懐かしい気分に浸ることで、気持ちのリフレッシュになるといった効用のほかにも、非常に大きな効用があります。それは、過去の記憶へのアクセスがよくなり、自伝的記憶が豊かになるというメリットです。
「自分の人生は失敗だった。もっと違う人生を生きたかった」
「思い通りにならず、悔いだらけの人生になってしまった」
などと嘆く人もいれば、
「自分の人生は成功だった。思う存分に生きたっていう感じがする」
「いろいろあったけど、これまでの人生に満足している。悔いのない人生を送ることができた」
などといかにも満足げに語る人もいますが、「自分の人生」というのはいったいどこにあるのでしょうか。