自社の強みや差別化ポイントを明確に打ち出すこと 

 次に、「応募したくない求人(情報)」についてです。これも、8項目の中から選択してもらいましたが(複数選択可)、選択がいちばん多かったのが、「給与や福利厚生などの条件面が合わない」で、47%の回答を集めています。

 もちろん、どのような業種・職種においても、求職者は条件面の充実を求めますが、特にITエンジニア・DX人材においては超売り手市場で、転職の際に報酬条件が上がっていく傾向が強いです。それから、IT業界は技術の進化が速く、エンジニアは常に新しいスキルを学び続ける必要があります。学習には多大な時間や労力がかかるため、その投資に見合う報酬を求めるのではないかと思います。

 次に多かったのが、「これまでの経験を活かすことができない」の45%、「キャリアアップのイメージが持てない」が37%と続きました。ITエンジニア・DX人材は高度な専門性を求められることが多く、個々のスキルや経験がキャリア形成にそのまま直結します。そのため、求人情報の中で、求められるスキルや役割が具体的に示されていない場合、求職者は「自分がこれまでに積み重ねてきた経験が新しい職場で活かせないのではないか」と不安を抱きます。

 一見、遠回りに思える経験が、結果として大きなキャリアアップにつながったエンジニアの事例があります。スマートフォンがまだ普及しておらず、ガラパゴス携帯(ガラケー)が主流だった時代に、あるエンジニアはさまざまな客先を渡り歩きながら、センサーの開発や画面設計、カメラの開発など、多岐にわたる技術を習得していました。好奇心旺盛な彼は、幅広い技術経験を積み上げていたのです。やがて、時代が進み、スマートフォンの開発が始まると、彼はその経験を活かしてスマートフォン開発企業への転職を果たしました。スマートフォンが搭載する多彩な機能に関して、すでに開発経験を持っていたため、スムーズに転職することができました。

 新製品の開発においては、その分野の経験者を探しても対象者が見つからないことが少なくありません。この事例が示すように、「スマートフォンの開発経験者」を単純に求めるのではなく、必要なスキルを細分化し、それを持つ候補者がどのように活躍できるかを見極めることが重要です。また、新製品の開発を通じて得られるスキルや成長の可能性を明確に伝えることで、適切な採用が実現します。

 もうひとつ、注目すべき結果として、「企業や製品の特徴が不明瞭で将来性を感じない」という回答が19%ありました。この背景には、求人サイト上に似たような募集要件や仕事内容の求人が数多く存在している現状があります。しかし、製品やサービスの内容が具体的に伝わっていない場合、エンジニアは自分がその仕事でどのように貢献できるのか、さらには、社会や顧客にどのような影響を与えられるのかを想像することができません。その結果、企業に対する魅力を感じなくなり、応募を躊躇する要因となります。また、企業の技術力や市場での競争力が見えない場合、エンジニアは時代遅れの技術や将来性のない製品に関わるリスクを懸念します。これは、自身のキャリアの停滞につながる可能性があるため、応募を避ける理由にもなります。こうした課題を克服するためには、自社の強みや差別化ポイントを明確に打ち出すことが重要です。もし、強みや差別化に悩んでいる場合は、社内の営業やマーケティング担当者に相談してみてはいかがでしょうか。彼らの知見や経験を活用し、具体性と魅力を持った求人情報を作成することで、応募者に自社の価値をしっかりと伝えることができるでしょう。