人事部が自社に合ったIT人材を採用し、会社全体のITリテラシーを高める方法

経済産業省が2018年に「2025年の崖」(*1)という表現で、DX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性を説いてから7年。コロナ禍で多くの企業のIT化は進んだものの、民間企業の最新調査(*2)によれば、DXに関して、「十分な成果が出ている」と答えた企業は10%程度にとどまっている。その理由のひとつに、各企業における、IT・DX人材の不足があるだろう。そもそも、IT人材とDXを行う者は異なるのか? なぜ、自社でエンジニアを含むIT人材を雇用する必要があるのか? DXを推進する企業は、どのような人を採用し、どう向き合っていけばよいのか? エンジニアとして社会人生活をスタートし、人材エージェントの大手で2000名以上のエンジニアの転職をサポート――その後、起業し、現在は、HRコンサルティングサービスなどを展開している、株式会社レイン(LeIN) CEOの芦川由香さんに話を聞いた。(ダイヤモンド社 人材開発編集部、撮影/菅沢健治)

*1 経済産業省「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」より
*2 PwC Japanグループ「日本企業のDX推進実態調査2024(2024年7月29日)速報版」より

企業によって、DXの定義と目的があいまいな状態

「DX いつから」と検索すれば、DX(デジタルトランスフォーメーション)というワードが生まれたのが、いまから21年前の2004年だとわかる。その14年後の2018年に、経済産業省が「デジタル産業の創出に向けた研究会」を発足し(*3)、「DXレポート」を公表――以降、コロナ禍を経て、「DX」というワードは、いまや、ビジネスシーンにとどまらず、巷間に知れわたっている。

*3 2020年8月には「デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会」を設置

芦川 いつの間にか、「IT化」という言葉が「DX」に置き変わりましたね。私たちLeIN(株式会社レイン)も、設立した当初は「IT×HRに強い会社」と謳っていましたが、その表現が最適ではなくなってきているのかもしれません。昨今は、DXという言葉をどこでも目にしますが、各社各人のDXの定義(*4)や言葉の使い方がバラバラなので、私自身も、「DXって、何なんだろう?」と考えることもあります。そもそもIT化はDXの手段ですが、DXもその先にある目的からすれば手段でしかありません。DXの目的があいまいなまま、社内の人材をDX担当に任命したり、外部人材を採用したりする企業(*5)も少なくありませんが、それではDXの目的を果たすことはできないのです。

*4 経済産業省は、DXを「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義している(DXレポート2 中間とりまとめ/2020年12月)
*5 経済産業省は、企業に対して、DX戦略の推進に必要なデジタル人材の育成・確保の方策を求めている(デジタルガバナンス・コード3.0)

 そもそも、IT人材とDXを行う者は同じなのだろうか?

芦川 一般的には、IT人材は、組織に適切な情報システムの導入および運用を行う人材を指していて、いわゆる“守りのIT(*6)”の部分を担う人たちを意味することが多いですね。一方、DX人材は、Xが「トランスフォーメーション」という言葉のとおり、ITを駆使して、社内や事業の変革(トランスフォーム)を推進していく役割の人たちを指します。ITの技術とビジネスの知見を併せ持っている人がDX人材とされることが多いので、IT人材はDX人材であるための十分条件で、DX人材はIT人材であるための必要条件と言えるのかもしれません。さらに「IT人材」は、「ITエンジニア」よりも幅広い人たちを指し、言葉がより包括的になって、「DX人材」と言われている感があります。包括的なので、「DX人材ってどういう人?」と聞かれても、多くの人が明確に答えられないでしょう。人事担当の方も、経営層との対話の中で、「DX人材が必要ですね」と、漠然としたイメージで語ることもあるでしょう。社内のITシステムを保守したり、パソコンに詳しい人が、社長の一存で「DX担当」になるケースもあります。

*6 我が国企業が国際競争を勝ち抜いていくためには、従来の社内業務の効率化・利便性の向上を目的とした「守りのIT投資」にとどまることなく、中長期的な企業価値の向上や競争力の強化に結びつく、「攻めの IT 投資」が重要となる(2015年12月/経済産業省「攻めの IT-IRガイドライン ~企業価値向上に向けたコーポレート・コミュニケーションのために~」より

人事部が自社に合ったIT人材を採用し、会社全体のITリテラシーを高める方法

芦川由香

株式会社レイン(LeIN) CEO

大学時代に独学で画像処理ソフトを開発したことがきっかけでITに興味を持ち、エンジニアとして電力系SIerへ入社。リクルートエージェントへ転職後、IT・製造業領域の採用コンサルタント・キャリアアドバイザーを担当し、100社以上のIT企業、2000名以上のエンジニアの転職をサポート。連続MVP受賞などの成果を上げる。2014年にフリーの採用コンサルタントとして独立し、多くの企業の採用を支援。2019年に株式会社レイン(LeIN)を創業。LinkedInのオフィシャルビジネスパートナーとしてLinkedIn製品とHRコンサルティングサービスや採用業務代行(RPO)サービスを提供している。

 

 経済産業省は、2030年には約59万人のIT人材が不足すると予測している(*7)。企業の需要に人材の供給が追いつかないなか、IT・DX人材の就職を支援している芦川さんだが、昨今、どのような職種のニーズが高まっているのだろう。

*7 「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」(2016年6月)において、高位シナリオでは約79万人が不足すると予測している。

芦川 DX化を進めるために必要なデータサイエンティストや、AI系のエンジニアの求人が増えています。それから、クラウド技術の普及が急速に進み、企業がオンプレミス(自社内でのサーバー運用)からクラウド環境へ移行する動きが加速したり、ここ数年でリモートワークが普及したことでクラウドエンジニアも。また、デジタル化が進む現代社会において、サイバー攻撃の脅威が増大し、企業や組織がセキュリティ対策に投資している背景からセキュリティエンジニアのニーズも高くなっています。

 IT人材――たとえば、エンジニアの採用で、まず、留意したいことは何か?

芦川 エンジニアの求人はたくさんありますが、実際の業務内容は千差万別です。まずは、自社の実際の業務内容を正確に定義し、どういうスキルや経験を持つエンジニアが必要なのかを把握する必要があります。「こんな業界の企業でエンジニアをやっていた人」といったようなあいまいな定義では、自社に適したエンジニアを採用できないことは皆さんもお気づきでしょう。一人が持っている数多くのスキルが可視化されて、「スキルベース」の採用や育成を行えるようになることが、企業と個人の双方にとって最適な状態だと考えています。「エンジニアならできるだろう」などと、「人ベース」のざっくりした採用を行うと、入社後に思わぬズレが生じて、せっかくの人材が活躍できないことも多くあります。