
木内康裕(きうち・やすひろ)
日本生産性本部 生産性総合研究センター 上席研究員。2001年に立教大学大学院経済学研究科修了し、公益財団法人日本生産性本部入職。16年から現職。24年から学習院大学経済学部特別客員教授を兼務。主な著書に『人材投資のジレンマ』(共著、日経BP)、『新時代の高生産性経営』(共著、清文社)、『PX:Productivity Transformation[生産性トランスフォーメーション]』(共著、生産性出版)。
日本経済が成長と分配の好循環に入る上でカギを握るのは、持続的な賃上げである。一方、日本企業が直面する最大の課題は人手不足だ。この両面から今、労働生産性の向上が強く求められている。そのための効果的な施策が、デジタル技術の活用とそれに伴う変革すなわちDXである。この分野で調査・研究を続ける日本生産性本部の上席研究員の木内康裕氏を取材して談話記事としてまとめた。連載3回でお送りする。最終回は人材育成について。1回目で明示した課題である「マネジメント層の育成」のための方策を説く。(文/ダイヤモンド社 論説委員 大坪 亮)
スキル面の育成と同時に
マインド面のケアが重要
生産性向上のための投資のあり方として考えたいのが、「人材投資・人材育成をどう進めるか」です。
人的資本経営や人への投資が重要といわれていますが、実は統計でみると人材投資は減少傾向にあります。国際的にみても、日本の人的資本投資は少ないのが現状です。
投資を増やすだけでなく、労働市場の流動化や働き方の多様化、専門性の高度化など、さまざまな変化への対応が求められています。
そして、企業が人材投資・人材マネジメントのあり方を変えていくことが必要です。従来は、会社主導でのキャリアパスの提示、会社視点での人材投資になりがちでしたが、今必要なのは自律型キャリア形成、そのための各従業員のニーズに合った人材投資です。
皆が同じ内容の研修を受けて標準化されたスキルを習得し、同じ働き方をする従来型から、多様なキャリアニーズへの対応やキャリアパスの複線化を進め、働き方の選択肢を増やす仕組みの整備が必要です。これには、リモートワークなど働く場所や勤務時間帯や勤務体系も含まれます。
スキル育成は重要ですが、それだけでは人材の能力・価値を引き出し切れません。初見康行実践女子大学准教授や守島基博学習院大学教授などと日本生産性本部が行ったアンケート調査をみると、スキル面を育成する投資や取り組みだけでは、成果や生産性向上に十分に結実しない可能性があり、人材の能力を引き出しきれないことが示唆されています。
そして、人材育成を通じて成果や生産性向上を実現するには、スキルだけではなく、創造的な思考や主体的な行動を引き出すためのケアが重要な媒介変数になっていることが分かりました。
ここでいうケアとは、企業理念への共感や自己効力感を高めるような取り組みを通じて、人材のマインドに働きかけるものを指します。このような「マインド面のケア」(こころのケアを丁寧に行う)と「スキル面の育成」を両立する取り組みにより、企業は人材の価値やエンゲージメント、組織の活性化をより引き出すことが可能になり、それがパフォーマンスや生産性の向上にもつながっていくのです。