水野 ケインズはまた、「重大な戦争と顕著な人口増加がない限り、経済問題は100年以内に解決されるか、少なくとも解決の目処が立つだろう」と述べています。現代の先進国では多くが出生率2.0を下回っており、第3次世界大戦もまだ起きていません。
一方、マルクスの時代には経済が下部構造であり、政治や文化を決定していた。
ケインズはそれを意識しながら、100年後に経済がこの土台から外れると考え、「心臓外科医ではなく、歯医者のような存在になる」と予言したのでしょう。
歯医者は町の一部として人々の健康を維持し、経済学も人間の生死を左右するような学問であってはならないと、1930年の論文で述べています。
ゼロ金利で豊かになっても
不満な人は「貨幣愛病」
島田 どういう道筋をたどって、心臓外科医が歯医者になるのでしょうか。
水野 まず、100年後にはみんなゼロ金利になるだろう。
島田 それを、ケインズは予言しているんですか。
水野 予言しています。ただし、彼がその根拠を明示していないのです。もしかしたら私が見落としているのかもしれませんが、ケインズにはもちろん根拠が頭の中にあったはずです。ただ、それを明かさない。天才は往々にしてそういうものです。
私のような人間だと、根拠をしっかりと示さなければなりません。そうでないと、質問攻めにあったり、「いい加減なことを言っている」と批判されてしまいます。
ケインズが言ったことに関しては誰も「いい加減だ」とは言わない。彼が言うなら、それに間違いはないとみんな思うんです。
私なりに説明すれば、ゼロ金利の理由は、資本は必ず過剰になるからです。ゼロ金利が実現すると、現在と将来の価値は同じになるため、今日を我慢して明日に期待する必要がなくなります。
島田 昔の定常状態に戻る。
水野 ケインズが言っている「定常状態」というのは、ある意味で経済の最終形態とも言えます。つまり、これ以上資本を増やさなくてもよい状態が訪れるということです。それが100年後に訪れると、ケインズは1930年の時点で予見していたのです。
なぜ100年後なのか、少し考えさせられますよね。ゼロ金利がその兆しであり、現在が最も豊かな生活を送っているという証しでもあります。「まだ満足できない」という人は、ケインズに言わせれば「貨幣愛病」にかかっているのです。