水野 ゼロ金利社会になると、明日のことなどまったく気にかけないような社会が訪れるとケインズは述べています。

島田 1930年から31年にそれを言ったわけですから、もうすぐですね。

水野 はい、もうすぐです。日本は先進国の中で最初にゼロ金利に突入した国となり、ケインズの予測がかなり当たっています。現在、日本の10年国債利回りは1.0%以下ですから、実質的にゼロ金利状態です。

 土地は人間が作れないため、土地の収益性よりも過剰になった資本の収益性の方が低くなる。これによって資本の希少性が失われ、ケインズが言う「資本家の安楽死」が起こるのです。ケインズは、資本主義は過渡的な現象だと見ていました。

日本人は働きすぎ
労働時間より自由時間

水野 ケインズの解説をしている有名な宇沢弘文先生が、「ゼロ金利というのは、流血を伴わない社会改革だ。」と訳しています。資本家は資本を持っているがゆえに働かなくていい。

 当時の資本家は利子収入です。イギリスの貴族が、囲い込み運動で土地を工場主に売ってイギリス国債を買うのが当時の資本家です。国債の利息だけで優雅な生活ができる人たちです。

 でもゼロ金利になると、革命をしなくても血を流さなくても、資本家は「安楽死」します。

書影『世界経済史講義』(ちくま新書、筑摩書房)『世界経済史講義』(ちくま新書、筑摩書房)
水野和夫、島田裕巳 著

島田 ケインズは労働時間についても予言してますね。

水野 1週15時間労働で必要なものが全部供給できるようになると言ってます。現在、日本では週40時間、残業を含めれば50~60時間ほど働いてますから、働きすぎですね。ケインズは、労働時間を減らして自由時間を増やすことが人間にとっては望ましいことだと言っています。

 ただ、人間の原罪として、人間は常に働かなきゃいけないように訓練されていることをケインズは懸念しています。急に自由時間が多くなったからといって、その時間を自由に使えるのかと。人間は心配性でゼロ金利になってもやっぱり相変わらず働いてるのではないのか。

 まさに今の日本のことを言っていますね。