介護職員写真はイメージです Photo:PIXTA

このまま少子高齢化が進めば、医療・介護産業のニーズがさらに増し、人手不足の中で希少な労働人材の奪い合いが発生してしまうと予想されている。慢性的な働き手不足を解消し、今後も安価で高水準な医療・介護サービスを享受できる日本社会にするためにはどのような方策が考えられるのか。本稿は、坂本貴志『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』(講談社)の一部を抜粋・編集したものです。

規制産業ゆえに医療・介護産業は
市場メカニズムで調整されない

 人口減少経済では人手不足により賃金が上昇することで、サービスの価格は上昇する。そして、その過程でサービスの質や量は調整されていく。

 今後、市場メカニズムは人口動態の変化に応じて、多くの産業で必要な調整を引き起こす。しかし、医療・介護産業は規制産業であることから、このようなメカニズムが自然に発露していくかどうかは不透明である。

 医療産業においては、保険収載されている医療行為に関する価格は、診療報酬制度によって定められている。

 また、医師や看護師は業務独占資格となっており、法律で定められている必要な教育を受け、国家試験に合格して免許を取得した者しか業務にあたることはできない。また、医療機関が保有する病床数も政府によって規制されている。

 介護産業に関しては介護職が業務独占資格とはなっていないなど、医療産業と比較すれば政府による規制は緩やかなものとなっているが、介護報酬によって価格が定められているなど医療産業と構造は似通ったものになっている。

 医療・介護サービスの多くは、財・サービス市場における価格や労働市場における需給が実質的に政府によってコントロールされていることから、ほかの産業と同様の調整は行われない可能性もある。

 たとえば、働き盛りの人が減少していく時代においても、日本に住む人が十分な医療・介護サービスを受けることを優先し、診療報酬や介護報酬を積極的に引き上げれば、事業者の利益は保証され、結果としてサービス量は拡大することになる。

 また、低い自己負担割合や高額療養費制度などを通じて利用者の自己負担額を抑えれば、消費者側も値段を気にせず十分な医療・介護サービスを受けることができる。

 逆に、診療報酬や介護報酬を現状の水準から引き上げないのであれば、事業者の利益が圧迫されることで、経営状態が悪い医療・介護事業者は市場からの退出を余儀なくされるだろう。その結果として、事業者の数が減少し、サービスの提供量が減少することになる。